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特許不実施の場合の裁定通常実施権とは

たとえば、あなたがある発明をしたとして、その発明について特許をとろうと考えたとします。

しかし、その発明とほぼ同じような特許が既に他社によって登録されていたとしたら、どうしますか?
この場合は、特許取得を諦めるか、その特許について権利を持っている企業に対して特許権自体を売却してもらう、あるいは、ライセンスをしてもらうといった対応が考えられるでしょう。

しかし、その権利者がその特許を全く使っていないにもかかわらず権利の譲渡やライセンスをしてくれないといった場合はどうなるでしょう。諦めるしかないのでしょうか。
実は、産業の発達のために立法されている特許法では、ある一定条件を満たす場合に行政によって通常実施権を認めるという制度を用意しています。

今回は特許が実施されていない「特許不実施」の場合に認められる裁定通常実施権について解説します。

特許不実施の場合とは

不実施とは、実施をしないことを言いますが、まずは「実施」がどのような行為にあたるかという点の検討が必要です。実施とは、ひとことでいうと、特許を使用することをいいます。特許法上にも以下のように定義がされています。

<特許法 第2条(定義)>
第二条 (略)
2 (略)
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
4 (略)

特許法第2条3項では、物や方法の発明であれば、その物や方法を使用し、物であれば譲渡したりといった行為、物を生産する方法の発明であれば、その方法の使用やその方法によって生産した物を使用することが「実施」であるとされています。

つまり、不実施とは、これらが一切行われていない状態を指します。

不実施の場合の裁定通常実施権とは

不実施の場合の通常実施権の裁定制度とは、特許発明が継続して3年以上日本国内において適当に実施されていないとき、行政に対して通常実施権の設定を要求できる制度です。

そもそも特許法の目的は、発明の公開を代償として、その発明に対する独占排他的な権利を与える点にありますが、実際にその発明が全く活用されていない状態が何年にも渡って継続しているような場合は、社会的観点から適切な状態にあるとは言えません。

特許の不実施の状態が継続することで産業の発達を阻害する可能性もあるため、特許法では第83条によって以下の通り規定しています。

<特許法 第83条(不実施の場合の通常実施権の設定の裁定)>
第八十三条 特許発明の実施が継続して三年以上日本国内において適当にされていないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を経過していないときは、この限りでない。
2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。

不実施の場合の裁定通常実施権を請求する場合の注意

注意が必要なのは、不実施の場合の裁定通常実施権が認められるための要件です。過去にその特許が継続して3年以上実施されていなくても、現在において実施されている場合は請求ができないという点、そして、出願の日から4年を経過している必要がある点です。

これら期間的な要件に加えて、事前に権利者と協議をしているか、協議をしようとしたという事実が必要となります。

相手との話し合いで解決ができなかったときにはじめて特許庁長官にその請求ができるという点に注意が必要です。

どのような場合に権利が認められるかという要件についてはしっかりと確認をしておきましょう。

まとめ

要件さえ満たせば、その特許を実施できる権利である「不実施の場合の裁定通常実施権」。競合の特許を調査する際に、競合がその特許を実施していない場合、自社においてその特許を実施できる可能性があることを頭にいれておきましょう。