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特許の専用実施権と通常実施権とは?違いについても解説

特許に関する知識が増えてくると、「特許を第三者に使用させることができる」という点に気が付くと思います。

特許を使用することを「実施」といいますが、今回は自分以外の第三者に特許を実施させる際に必ず知っておかなくてはならない「専用実施権」と「通常実施権」の解説と、その違いについて説明していきます。

特許の専用実施権とは

特許の専用実施権とは、他人の特許発明を独占的かつ排他的に実施できる権利をいいます。

特許庁への登録が必要な権利ですが、専用実施権が設定されると、特許権者も、設定された専用実施権の範囲内においては特許発明を実施することができなくなります。

ここでいう「範囲」というのは、「この特許におけるこの記載の部分」といった内容的な範囲や、「〇年間」といった時間的範囲、「関東地方において」といった地域的範囲において設定された範囲のことをいいます。こうした範囲的な限定をつけて専用実施権を設定できるという点も事業をおこなう上で重要なポイントとなりますので、おさえておきましょう。

権利の移転についても制限があり、専用実施権は、①事業とともに移転する場合、②特許権者の承諾を得た場合、③相続その他一般承継の場合においてのみ移転が可能とされています。

専用実施権は、当事者間における信頼関係に基づいて設定されることが多いことから、相手方がどのような資本をもってどのような技術の使い方をするかということが特許権者にとっても重要であることからこのような場合に制限をしています。なお、①の場合については、事業を移転しても専用実施権を移転できないとしてしまうと、その事業設備が全て水の泡となってしまい、これを認めないことで国家経済上の損失になると考えられていることからこのような規定がされています。

特許の通常実施権とは

通常実施権とは、特許を実施できる権利で、特許権者(特許法 第78条1項)または特許権者から承諾を得た専用実施権者(同法 第77条4項)との間で設定される権利です。

それでは、専用実施権との違いを見ていきましょう。

それぞれの違いと注意事項

まず、最も大きな違いは、専用実施権は設定後において特許権者であってもその特許を実施することができませんが、通常実施権であればその実施は可能です(当事者間において「独占的通常実施権」を設定した場合を除きます)。

専用実施権は同一の範囲内で重複して権利を設定することができませんが、通常実施権については特段制限がなく、複数の人に重複して設定することが可能です。

次に、専用実施権は登録が効力の発生要件となっているため、必ず特許庁への登録が必要で(契約がなされており、登録がされていない場合は独占的通常実施権の設定契約があったと解されます)、特許庁に登録をされた段階で権利が発生しますが、通常実施権の場合は、特許権者または専用実施権者からの許諾があったタイミングでその権利が発生します。

そして、専用実施権は特許権者の許諾によるものだけですが、通常実施権には、法的に権利が発生する法定実施権と裁定実施権があります。この記事では細かい解説はしませんが、先使用による通常実施権や不実施の場合に認められます。

最後に、差止請求や損害賠償請求の可否といった点において大きな違いがあります。専用実施権者は、その権利の侵害をする者に対し、自己の名において差止請求や損害賠償請求をすることができます。一方で、通常実施権者は差止請求をすることができず、損害賠償においても、独占的通常実施権が設定されていない限り、損害賠償請求をすることができません。

まとめ

特許の活用を考える際は、どのような権利を設定すると、どうなるのかという点を必ず把握しておきましょう。

<参考条文:特許法 第77条(専用実施権)>
第七十七条 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる。
2 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。
3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。
5 第七十三条の規定は、専用実施権に準用する。
<参考条文:特許法 第78条(通常実施権)>
第七十八条 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。
2 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。