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知って得する!オープンイノベーション成功事例 5選

オープンイノベーションは、合理的である一方、必ずしも成功に直結するわけではありません。そのうえ実際に成果をあげるためには、何段階ものステップを克服する必要があるのです。オープンイノベーション導入の手掛かりとなるよう、この記事では、各企業のオープンイノベーションの成功事例を紹介していきます。

オープンイノベーション成功事例5選を紹介

オープンイノベーションとは、自社の開発部門だけでなく、様々なノウハウを有する他社や個人のアイデアを取り入れる手法を意味します。自社の企業秘密を一部開放するリスクを抱える一方で、効率的な開発を実現することができます。

それでは、各企業におけるオープンイノベーションの成功事例を紹介していきましょう。

1:富士フイルム

富士フイルムは、創業時は写真用のフィルムを製造する会社でした。しかし現在、写真はスマホ等のデジタルカメラで撮ることが当たり前の時代となり、フィルムカメラは、限られたマニアが使用するものとなっています。

写真フィルム市場に変調が現われたのは1997年のことで、その年をピークに、現在では統計上ほぼゼロの水準まで市場は縮小しました。

2006年に初めて化粧品に参入した富士フイルムは、翌年「アスタリフト」の販売が開始され、売り上げは4年で100億円を超えました。

さらに同社は花王と、従来とは着想の異なる髪染め剤の共同開発をしました。「 レインボー染料」という名称の「非反応型持続性染毛染料」です。

従来の髪染め剤は、染料の鮮やかな色がそのまま出せず、どうしてもくすんだ色になるという課題がありましたが、レインボー染料は、「毛質内に染み込んで髪を傷めず、かつ鮮やかな色を出す」ことを目標に、 富士フイルムの材料技術と花王の色評価技術を使って開発されたのです。

また富士フイルムは、高級品市場とのつながりを強化するため、ファッションデザイナーの中里唯馬氏とのオープンイノベーションを行なっています。

2016年以降の「パリコレ」で、中里氏はインクジェット技術を使ってフィルムに印刷したドレスを発表しました。オーロラのような輝きを放つ作品で、ファッション誌にも大きく取り上げられました。

従来の技術力のアピールだけでは、ファッション業界にインパクトを与えることはできませんでしたが、オーダーメードの一点物であるオートクチュールを発表する場を得られたことで、世界的な発信が実現したのです。

2:J R 九州

鉄道が本業のJ R 九州が、社内に経験やスキルがない分野に進出するために、オープンイノベーションを活用したのが、日本初の本格的なクルーズトレイン「ななつ星」です。

ななつ星は、出発地から九州7県を巡って元の出発駅に戻ります。1人当たりの旅行代金が50万円から80万円もする商品に、発売当初3か月で定員の7倍強の予約申し込みがありました。この大盛況が周辺の観光地も順調に売り上げを伸ばす相乗効果を生み出しています。

開発に携わるスタッフは、高級サービス事業を担当していた人材と、鉄道事業を担当していた人材の組み合わせとしました。 選抜されたクルーも、元々社内にいた人と、社外の公募に応じた人を半数ずつ採用した構成でした。公募組は30倍の競争率を勝ち抜いた国際線のベテランC A、名門ホテルのコンシェルジュ、高級レストランのソムリエなどが含まれていました。

高級ホテル、高級旅館とも違う日本初のサービスの創生に、様々なサービス業のソフト、ノウハウが有効に生かされたのです。

3:コマツ

建設機械大手のコマツが開発した「スマートコントラクション(スマコン)」は、油圧ショベルなどの機械にGPS通信機能を付け、どこの現場でどのように活用されているかの情報を把握し、自社サーバーに蓄積するシステムです。

スマコンはコマツの事業範囲を広げることに貢献しましたが、さらなる効率化のためには、建機、測量機など機器のデータを集約するだけでなく、作業員が働いた内容、作業の結果で起きた地形の変化などのデータも同時にリアルタイムで集約しなければなりませんでした。

これを実現するため、コマツはNTTドコモ、SAPジャパン、オプティムと共同で、「ランドログ」 というITプラットフォームを構築しました。

「ランドログ」はソフトウエアの接続仕様が公開され、誰でもアプリの開発に参加できる点が大きな特徴です。米キャタピラーや日立建機などコマツのライバルとされている企業も、ランドログの情報にアクセスできます。

あえてプラットフォームをオープンとしたのは、建設現場ではコマツ以外の建機も多数使われており、他社製品がプラットフォームへアクセスできなければ参加する顧客の利便性が落ちるからです。

ライバル企業に情報を与えるマイナス面を犠牲にしても、プラットフォームが強くなるプラス面を優先したシステムといえます。

4:味の素

味の素は、手間をかけずに精密検査が実施できるサービスの開発に着目しました。

味の素が他社と共同開発した『アミノインデックスがんリスクスクリーニング』(AICS)は、この課題の成果のひとつとされています。

AICSは、健康な人とがん患者の「血中アミノ酸濃度バランス」を統計的に比較解析することによって、がんのリスクを評価するツールです。AICS開発は、味の素が創業以来取り組んでいた「アミノ酸研究」がベースにあります。

同社には、アミノ酸の膨大な研究データと高感度で短時間に分析できる技術がありますが、自社だけでは実用的なサービスとして形にすることは困難でした。

そこで、味の素が持っていない技術を備えた複数企業に声をかけ、商品化を目指すことになったのです。共同開発パートナーとして声をかけたのは、「液体クロマトグラフィ質量分析」技術の島津製作所、「試薬」技術の和光純薬、「臨床試験」ノウハウを持つSRL、「キューブクーラー」技術のカノウ冷機でした。

AICSは複数企業の技術の組み合わせによって実現した商品でしたが、そのきっかけを作り、イニシアティブを取ったのは味の素の研究チームでした。2007年に社内研究チームによりアイデアが提案され、2011年にサービスが開始されました。

同社は2011年から組織をオープンイノベーション仕様に変え、他社の知見を積極的に導入しています。他社と提携をする目的は、自社が持たない資源を他社から補う作業だと従業員が理解しているため現場の反発なく事業が進められているそうです。

5:ダイキン工業

ダイキン工業は、海外売上高比率が70%以上の世界最大級のエアコン機器メーカーです。

先進国で評価が高いダイキンのインバータエアコンは、モーターの回転数を可変制御する機能を持ち、通常のエアコンより消費電力を大幅に削減できますが、低価格品が主流の新興国市場での販売が難しいのが現状です。

このため、日本でほぼ100%普及している住宅用インバータエアコンも、海外ではほとんど普及しておらず、北米、中南米はほぼゼロ、中国は7%のシェアに過ぎません。

しかし、ダイキン工業は、新興国でもインバータエアコンの成長が見込まれると判断し、中国広東省の珠海格力電器股傍有限公司(珠海格力)と提携することを決定しました。

提携の内容は、ダイキンが日本市場向けに販売する小型インバータエアコン生産の一部を珠海格力に委託し、グローバル市場において、共同開発・購買を行うというもので、商品の企画・開発はダイキンが担当します。

中国企業との提携には、知財が相手に漏れるリスクがありますが、このリスクと引き換えに、旧式のエアコンで世界最大級の珠海格力から、新興国市場開拓ノウハウの獲得を目指しているのです。

まとめ

日本におけるオープンイノベーションは、まだ夜明けを迎えたばかりです。今後各企業にオープンイノベーションが根付くかどうかは、実践した企業の成功体験の共有にかかっています。

伸び悩む日本経済を再び加速させるためには、オープンイノベーションをただのブームとして終わらせるのではなく、果敢に取り組むことが重要です。たとえリスクがあっても、市場とのつながりを持つことが、オープンイノベーションの使命なのです。

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