width=

IT企業がメーカーに?新製品を携え介護分野に挑戦-コアフューテック株式会社 松本正己氏-

大企業の開放特許を活用して新たな技術を生み出す知財マッチング事業を地方自治体が主体となって行ったことで知られる「川崎モデル」。その対象企業に技術の強みと協業連携の強みを伺います。

今回は、川崎モデルで介護用見守り機器「e伝之介くん」を製造・開発している、コアフューテック株式会社代表取締役 松本正己氏にお話を伺いました。

-「e伝之介くん」とはどういう商品ですか?

人の起床や離床を感知する機器です。機器の中にカメラと赤外線LEDが入っていて、そこで取り込んだ画像を解析して人の動きを判別する仕組みで、介護用の見守り機器として使っています。

具体的には、最初にベッド、次に枕を認識して人の頭を探して焦点を当て、画像を外部に送信することなく機械の中で認識・解析を行っています。解析の為の別なPCや起動時の設定不要で電源を点けるだけで利用することが可能で、専用の簡易送信機で、ナースコールのように異常を知らせる機能もあり、設置も簡単です。

- 今までの離床センサーとどう違うのでしょうか

例えば今までの赤外線人感センサーは人だけでなく、猫などのペットにも反応してしまうなど過剰に作動してしまうことがありました。また、センサーマットだと介護の際に音を鳴らさないために介護の方が一時的にセンサーをオフにして介護をし、その後点け忘れてしまって肝心な時に作動しないという事故があるとか、床に敷く関係上、躓きやすかったり汚れやすいという問題があるという話も聞いています。

「e伝之介くん」は、いったん見守る人をロックすると他の人に反応しなくなります。ロックした人以外の余分な動きに反応しないので介助の際にスイッチを切らなくてもよくなります。また、非接触型でサイズも小さくベッドの上部に設置するため汚れや躓きも防げます。

このほか、画像解析技術において富士通さんの特許・技術を使っていることが大きな特徴ですね。

小さな会社で0から製作しようとした場合、センサーの精度などを不安に思われてしまうかもしれませんから、大手の技術・特許を使わせてもらい、そのような技術が内蔵されていることをアピールしています。

-大手企業の特許・技術を使うに至った経緯についてお聞かせください

川崎市は以前から知財マッチングイベントを積極的に行っていました。

弊社はもともとソフトウェアの第三者検証などを行っている会社で、今後を見据えたときに新しい事業の軸が欲しいと思い川崎市のイベントに参加したのがきっかけです。

川崎市の方はとても熱心で、弊社が今どんな技術を持っていて、何をやろうとしているかといったことをよくヒアリングしてくださったうえで、「この特許なら御社で活用できるのでは」というふうに声をかけてくださったんです。弊社から探し回ったわけではなく、川崎市のバックアップが大きなきっかけだったと思います。

-もともと介護事業をやられていたわけではなかった中でこの技術で提携を決めたきっかけは?

私自身が、高齢化社会になっていく中で介護にIT技術が必要になっていくだろう、と以前から考えていたので、川崎市の側から提示された特許のうち介護の関連特許が目につき、そこからこの技術を使うことを考え始めました。

-開発はどのように進みましたか?

今回の提携は、特許だけでなく技術的な部分、つまりプログラムのソースなども一緒にライセンスされるのが前提条件でした。

提供を受けたソースはPCで動かすことが前提のものだったので、まず私たちの側で「e伝之介くん」の小さな筐体の中に納まるミニPCボードにマッチするような形に書き換える必要がありました。ここが技術的にかなり大変で、ソフトウェアの中身が高度でブラックボックス化しており、触ると全体のバランスが崩れると直感的に感じる箇所もありました。こういった点は、富士通さんの技術者の方と直接やりとりさせていただき、解決法などを詰めて製品化へ持っていったという経緯です。弊社の技術を駆使してできる限りの動きをさせようというチャレンジをしたうえで、改善点をもらうこともありました。

ハード面では、カメラやLEDは高性能な製品を利用することが取り決められ、基本的な回路も提供いただきましたが、実際の回路構築やLEDセンサーの増設などの機能拡充はこちらで行いました。実際に製品化にあたっては赤外線LEDの強さなども自分たちの力で適正なものを探って作っています。

-他企業と提携して行う開発と自社開発とでは違いはあるでしょうか。

特許を使わせていただいたおかげで製品化のスピードは圧倒的に早くなったと思います。今回、構想から一年程度で使えるものになったのですが、自社のみで0からやった場合はこうはいかなかったでしょう。富士通さんが特許を取得するにあたって5年~10年の研究があったと思いますからその期間があってこそ開発期間を短縮できた、という形です。また、先述のようにコードの書換えでバランスを崩す可能性もあったので、あえて大きくいじらない、という選択をしたこともスピード感を後押ししたのだと思います。

ミニPCボードやプログラムのライブラリとの関係で思わぬ挙動をすることもありましたが、その辺りは何度か試行錯誤して製品化まで持っていた形ですね。ここをさらに最適化するのが今後の課題になると思います。

-貴社が取得した商標や意匠についてお聞かせください。

「e伝之介くん」という名称で商標を取っています。この名前を決めるために社内で結構な時間をかけて検討をしました。色々なアイディアを出しましたが、自分の中で思い浮かんだのが「伝」える「介」護、「伝介」という言葉でした。

そこで製品名を模倣されないように商標登録が必要だと考え「e伝介くん」として商標を出願しようとしたのですが、SONYがかつて「デンスケ」という商標をカセットテープレコーダーの製品名として取っていたことが分かって、そこと抵触しないように「之」を付けて「e伝之介くん」というネーミングで商標を取りました。

また、意匠に関しても形に特徴があったのでこちらも模倣を防ぐために意匠登録をしています。

製品を作った以上、「自分たちのものである」ということを明確にするために知財権を取得したという次第です。

-今後の知財戦略についてお聞かせください。

私達はもともと先ほど述べたようなソフトウェアの第三者検証など、お客様のお手伝いをする業務がメインで、自社で開発やメーカーのようなことはやったことが無かったので、製品の名称を考えたりするまで商標を強く意識してはいませんでした。ですが、今後も製品開発に携わることがあれば商標の取得も考えてみたいと思います。

例えば展示会などをやってみるといろいろな方が製品を見に来ます。その中には技術やブランドを自分のものにしようという方もいらっしゃるかもしれないかと思うと怖さがありますからね。

-外部と連携するために必要なことは何でしょうか。

メーカーになるとか、金型を作るとか、そういったことは会社として全くやったことが無い初めての経験でした。そういうところはいろいろな人との偶然の出会いで成り立っています。

まず製品デザイン。少し変わったデザインだと思うんですが、私の接点があるデザイナーさんに委託したところ「これは面白い」というデザインを作ってくださいました。

この試作品を3Dプリンターで出力して展示したところ、「これはもう金型は決まっているんですか」と樹脂屋さんから声をかけていただいて作っていただくことになりましたし、その樹脂屋さんに勤めていた方がもともと大手企業に勤務されていた方で、板金や配線など製品内部の色々な部品に詳しい方への発注をしていただいて…というような形で自分たちではたどり着けないようなところまで進められた、という感覚です。

この製品を作るにあたって自分たちの力だけでできたことはプログラムの改良ぐらいで他は正直なところかなり助けてもらったと思います。基盤の話もそうですが、当然うちではできないので信用できる企業さんに依頼して作ってもらってます。

外部と協力してやっていくにあたっては、ある程度本音で話していきながら開発を進めていくことが重要だったなと思います。

-製品開発に新規で乗り出すのは相当ハードルが高いように思いますが…

実は、この事業に関しては、弊社の中では取締役など限られたメンバーで立ち上げたプロジェクトで、社員を大きく巻き込むということはやっていないんです。さながら社内ベンチャーといった形です。私自身は前職が金型に関する事業をやっていたこともあって違和感なく取り組めましたが、こういった状況が無ければ他社特許の利用やゼロからの製品開発は始めなかったかもしれません。

販路開拓のノウハウなどもなかったので、川崎の信用金庫が行っていた顧問マッチングなどを利用して市場調査や販売戦略を一緒に考えていただいています。

付き合いの中でいろいろ動くとチャンスは生まれるものだな、と思いますね。

-ほかの企業が貴社のように技術提携や協業を行う際にどのような点に気を付ければいいでしょうか

私自身はこの取り組みに面白さを感じていましたし、幸い周囲に助けていただいて大きな苦労は感じずに製品化まで進められました。ですがそれは様々な場面で専門家の力を借りられたことが大きく、そういった協力がなく一人で進めていたら苦労の連続だったかもな、と思っています。専門家、その道が得意な方に協力をあおぐのは必須ですね。

あとはなにより開発する製品がしっかりビジネスにならないと社員に説明ができませんから、そこのせめぎあいも難しいですね。

-貴社が他社の技術を利用した製品開発で成功できた秘訣はなんでしょうか?

これという秘訣はないかもしれませんが、あえていうなら「出会い」ですかね。出会いのチャンスがありそうなときに積極的に前に進んでいったことが大きいと思います。そこでしり込みしてしまうと何も進まないのでまずは飛び込んでみる、岐路があればその度に決断をするということが大事です。

-将来予定している展開についてお聞かせください

「e伝之介くん」について、はじめはグループホームに使っていただければと思ったんですが、離床ブザーがなってからすぐに駆け付けられるような在宅介護のケースでも使ってもらうのもいいのではないかと考えています。

特に同居の介護の場合、介護している家族の方などは心配で夜も眠れない、というようなケースもあると聞いたので、ここに知ってもらうような展開を考えています。現場のケアマネージャーの方々に知ってもらえればと思っていますね。

このように、製品として「e伝之介くん」は完成しましたが、この製品だけを売っていても市場が大きくならないな、とおもっています。販売開始と同時にコロナが流行し出鼻をくじかれてしまったのですが、介護系は人が足りない、危険が多いなど問題を目の当たりにしてここをITの力で助けたいという気持ちは変わりません。

今後はIT系の企業としてITに特化した介護機器のラインナップを増やしていって、「介護のことならコアフューテックに聞けばいいですよ」というような部門をつくればいいと思っています。

お知らせ

現在下記の3か所で常設の展示を行っています。ご興味がありましたら是非お寄りください。営業時間等は各所のホームページを確認して頂ければと思います。

今後も常設会場は増える予定です。


カワサキ ウェルフェア テクノロジーラボ(略称:ウェルテック)
住所:神奈川県川崎市川崎区日進町5-1 川崎市複合福祉センター「ふくふく」1階
電話:044-223-6468
web:https://www.city.kawasaki.jp/280/page/0000130219.html

公益財団法人湘南産業振興財団 ロボテラス
住所:神奈川県藤沢市辻堂神台2-2-1アイクロス湘南3階
電話:0466-52-5622
web:https://roboterrace.jp/

総合リハビリテーションセンター 福祉のまちづくり研究所
住所:兵庫県神戸市西区曙町1070
電話:078-925-9282(直通)
web:https://www.assistech.hwc.or.jp/