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感染広がるコロナウイルスの「ワクチン問題」 ― 特許・知財が抱える問題

感染広がるコロナウイルスの猛威

コロナウイルスが世界的に猛威をふるい続けている昨今。連日感染者数が増えていくなか、2020年9月21日には、CDCから空気を介して感染することが分かったとの発表もありました。

コロナウイルスのワクチンや治療薬が開発された場合、知的財産(主に特許)はどのような問題を抱えることとなるのでしょうか。

開発されたワクチンは特許として取得可能

まず、どのようなものについて特許権が取得できるのかについては、こちらの記事をご覧ください。
「特許取得の要件」:https://www.tokkyo.ai/wiki/requirements-to-obtain-a-patent/

ワクチンや治療薬は高額

昨今の状況下において、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の開発を各国の研究機関や製薬会社が進めていますが、当然開発されたものについて特許を取得することが考えられます。

特許権は、「取得した権利を独占できる」ことを特徴としていますが、特許利用料がワクチンや治療薬の価格に影響してくるため、当然ワクチンや治療薬の販売額は特許利用料の分高くなってしまいます。

このことから、販売額がその分高くなり、貧しい新興国や発展途上国にワクチンや治療薬が行きわたらないという問題が当然出てきてしまいます。

先進国だけでなく、発展途上国の貧しい人たちにも届く仕組み

この問題を解決する手段のひとつとして「強制実施権」という制度があります。

強制実施権とは、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)加盟国において、一定の要件を充足した場合には、加盟国が特許権者の意思に反して強制的に実施許諾を与えることをいい、TRIPS協定ではこれができる旨を定めています。

もちろん、強制実施権は無償で付与されるものではなく、許諾の経済的価値を考慮し、特許権者は、状況に応じて適当な報酬を受けられることとなっています。

日本における実施権

日本においても、TRIPS協定(第31条及び第31条の2)に対応する制度として、特許法で、特許発明の実施が公共の利益のために特に必要であるときは、経済産業大臣の裁定により通常実施権が許諾されると定めています(「裁定通常実施権」:特許法 93条2項)。

コロナウイルスと戦うために

ここまで、ワクチンや治療薬が高額という話をしてきました。発明者のインセンティブを守るためには、特許権者に「独占」的な権利を与える必要があることもいうまでもありません。また、ワクチンや治療薬の開発には巨額の投資が必要で、これらの開発費を回収するために販売額が跳ね上がるのも仕方ありません。

しかし、今回のような世界規模で人命に大きくかかわる新型コロナウイルス感染症の拡大といった場合は、それ自体が大きな世界経済のリスクにもなります。

今回のような人類の危機的状況には、世界が協力して立ち向かう必要があります。

コロナウイルスで動いた日本の知財

そんな機運のなか、日本の知財も動きはじめました。裁定通常実施権の発動を待つことなく、キヤノン、トヨタなどの大企業が中心となって特許を無償開放するための共同宣言「COVID-19と戦う知財宣言(https://www.gckyoto.com/covid19)」を打ち出したのです。

これらの宣言の賛同企業は日に日に増加し、100社近い参加企業が100万に届くかと思われるほどの莫大な知的財産を無償で開放しています。

これらの有志企業の取組をはじめとして、人類が一丸となることで医療技術が進歩し、多くの人にワクチンが行き届く世界になること、さらに進んで人類が新型コロナウイルスの脅威にさらされずに済む世界が来ることを願うばかりです。