width=

パテント・トロールとは?何が問題なのか

企業が特許戦略を練るうえで対策を考える必要があるのが「パテント・トロール」です。

現代において事業戦略を練るうえで欠かせないのが特許戦略。そんな特許戦略を練るうえで必ず念頭に置いておく必要がある「パテント・トロール」について解説していきます。

神話に出てくる「トロール」は橋の下に住み、旅行者を威嚇し、通行料を払わせるモンスターのような存在ですが、経済用語で使われる「パテント・トロール」はいかなる存在をいうのでしょうか。

パテント・トロールとは

実は、明確な定義はありません。

いくつかのページを見てみると、概ね以下のような定義がされています。

「ある特許について自分ではビジネスに使用せず、その特許を使用している第三者に対し、差し止め請求訴訟などを提起し、高額な賠償金や和解金を得ようとする個人及び法人」(引用:「パテント・トロール5つの対策」:https://legalsearch.jp/portal/column/patent-troll/

神話のトロールと似ている点は、その特許を踏んだ人に対してライセンス料を要求したり和解金をもらおうとしたりという点でしょうか。

なぜパテント・トロールが問題になるのか

パテント・トロールの手口

ある特許に記載されている技術を特許権者に無断で使用すると「特許侵害」という状態になります。

特許侵害となると、特許権者は自社の特許を無断で使用している人に対してその技術を使った製品の販売を差止めるよう要求したり、「無断使用により自社が本来得られるはずだった利益を得られなくなった(自社の特許を使わせる代わりに、ライセンス料を得ることができたはずであったなど)ので損害賠償金をよこせ」という要求をしたりすることができます。

この制度を悪用し、「自社の特許を侵害しているから金をよこせ」というのがパテント・トロールの手口です。

パテント・トロールが侵害を主張する特許は、他の企業が取得した特許で使われていない特許を低価格で買い取ったものなど他者に対して和解金を要求する目的で取得されたものであることがほとんどです。

多くのパテント・トロールの手口は、実際にビジネスで使用していない特許を使って、「うちの特許を侵害しているのでライセンス料か、和解金を払ってください」という警告文を送付してきますので、こういった警告文が送られてきた際はパテント・トロールではないかと疑い、冷静に対応を検討することが必要です。

パテント・トロールへの対応でかかる費用

特許に関する差止めの要求や、侵害訴訟を提起されると、企業には、それに対応するために弁護士に依頼するなど、訴訟に対応するための費用が発生します。

これにより、発生する費用は企業規模問わず大きな痛手となります。

しかも、パテント・トロールの主張してくる特許侵害は、実際に侵害をしているかしていないかの判断が難しいようなものであることが多く、パテント・トロールに特許侵害をされたといわれた企業は、自社の製品が本当にパテント・トロールの特許を侵害しているか否かの判断をする必要があります。

仮にそういった状況下でまともに訴訟に対応をすると、対応する社内のリソースに加え、外部弁護士を使うケースがほとんどですので弁護士費用などの訴訟に関わる費用が掛かってしまいます。

特許訴訟の準備をする場合、侵害の判断をするために技術文書を読み込んで、書面の準備や証拠収集などで膨大な時間がかかりますので弁護士報酬だけでも非常に高額となります(弁護士に自社の技術を説明する文書を作成し、それを理解してもらったうえで訴訟の対応に必要な文書を作成してもらうという業務が発生します)。

そうであれば和解金を支払うことで早期に解決を図りたい・・・と考える企業が多く出てきます。

費用だけじゃない!企業の「レピュテーションリスク」

特許侵害訴訟を起こされた会社だということが公になると(裁判になると、その裁判の内容は公開されます)、その真偽に関わらず「あの会社は特許侵害を訴えられた会社だ」となってしまい、会社自体の価値算定にそのことが響いたり、直接製品の販売にも響いたり・・・とさまざまなリスクを抱えます。このことから訴訟になるのを避けるという判断をする企業も多いということが実態です。

パテント・トロールが要求してくる内容

パテント・トロールは、裁判でかかる訴訟費用よりも低い金額を要求するケースがほとんどですので、例えるならば企業は【訴訟をして膨大な時間を浪費して5000万円とられるのと、時間もかからず和解金を500万円払って終わらせるのどっちがいいでしょうか】という命題と向き合うことになります。

この命題と向き合った時に、最小限の損失で切り抜けたいと考える多くの企業はパテント・トロールに対して和解金を支払うことで終わらせるという選択をします。

これでパテント・トロールにお金が入ります。

このようにしてパテント・トロールは利益を上げています。

パテント・トロールが増えた?なぜ?

このようなパテント・トロールが急増した理由はIoTの発達にあります。

インターネット関連の技術発展により、現代ではあらゆるものがインターネットにつながる時代になっています。1つの製品に対して何百もの、ときには何千何万という技術が使われています。

このように、1つの製品あたりに使われている技術が増えることで、さまざまな権利者が存在する技術が複雑に入り組んで1つの製品を成しているというケースが出てきています。

上記の図は単純化したものですが、このA~D社各社のさらに下に多数の技術を持った企業が存在し、それぞれの会社にそれぞれの特許があるというイメージになります。

つまり、IoT関連の特許はパテント・トロールの対象になりやすいのです。

このうち1つの特許に対して差し止め請求をされてしまうと、製品全体がストップしてしまう可能性も出てきます。

アメリカだけの話ではない、パテント・トロールの脅威

パテント・トロールと聞くと訴訟が活発であるアメリカの話で、日本などでは関係のない話だと考える人が多数いるようですが、そうとも言えません。特にソフトウェア関係を少しでも扱う企業は注意をする必要があります。

「⽇本は、以下のようにパテント・トロールとって魅⼒的ではない環境があることが指摘された。

• 適切な特許審査により特許権の権利範囲が明確である

• 特許庁における特許の無効⼿続が適切に運⽤されており、また、裁判所においても特許無効の抗弁が適切に扱われていることから、権利の有効性に疑義のある特許権の⾏使が認められにくい

• 裁判で認められる損害賠償額や裁判⼿続に要する費⽤が、パテント・トロールの活動が活発な⽶国と⽐べ相対的に低額」

(引用元:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/sangyou/dai4/siryou3-4.pdf

パテント・トロールへの対策とは

具体的な対策方法については以下の記事で解説がされています。

・パテント・ウォッチング(「先行技術調査」、「パテントクリアランス調査」など)
・パテント・プールに加入する(あらかじめ複数企業でライセンスに関する取り決めをしておくこと)
・特許保険に加入する
・確認訴訟を行う
・再審査を請求する
(参考:「パテント・トロール5つの対策」https://legalsearch.jp/portal/column/patent-troll/

これら5つの手段が考えられますので、経営者や知財担当者は頭に入れておくようにしましょう。

まとめ

このように、パテント・トロールに目をつけられてしまうと事業活動に大打撃を受けてしまうようなリスクを負う可能性があります。

ライセンス関係を明確にすること、製品化やサービス開始前に特許調査をしっかりしておくことでパテント・トロールへの対策は可能です。

日ごろから特許のことは頭の片隅に置いておくようにしましょう。