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ソフトウェア開発契約における知的財産権の取扱いについて~著作権編その1~

ソフトウェア開発契約においては、知的財産権の取扱いについて定めることが不可欠です。特に、上場を目指す会社にとっては、事業の継続に必要な知的財産権を取得しているかどうかを上場審査においてチェックされるため、慎重な検討が必要となります。

そこで今回は、著作権の取扱いについて規定する際に注意すべき著作権法61条2項と59条について解説していきます。

著作権法61条2項…契約書の書き方に注意しないと譲渡できない権利があります

著作権法
第六十一条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

著作権法61条2項は、「第二十七条…に規定する権利」や「第二十八条に規定する権利」が譲渡の対象として「特掲」されていない場合は、これらの権利は譲渡されていないものと推定する旨を規定しています。

ここにいう「第二十七条…に規定する権利」とは、著作権者の許諾なしに、他者によって二次的著作物(著作権法2条1項11号)を創作されない権利(以下、「翻案権等」といいます)のことです。また、著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、…当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定しており、この規定に基づいて原著作物の著作者が専有する権利(以下、「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」といいます)が「第二十八条に規定する権利」に当たります。

例えば、ソフトウェア開発の受託者が開発したプログラム(著作権法によって保護されるものに限られます。以下同様です。)を委託者が改良する場合において、翻案権等が受託者に留保されているときは、委託者は、当該改良について、受託者の許諾を得る必要があります。また、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利も受託者に留保されていれば、委託者が改良したプログラムにさらに手を加えたい第三者は、原著作物の著作者である受託者と、二次的著作物の著作者である委託者の双方の許諾を得る必要があります。

こうした状況を避けるために翻案権等や二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を委託者に帰属させたいのであれば、これらの権利を譲渡の対象として「特掲」するのが有効です。例えば、契約書において、「〇〇に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、委託者に帰属するものとする。」と明記しておけば、著作権法61条2項の推定は及びません。これに対して、「すべての著作権」や「一切の権利」といった記載だけでは、「第二十七条又は第二十八条に規定する権利」が譲渡の対象として「特掲」されているとは言えないとされています。

著作権法59条…契約で譲渡しようとしてもできない権利があります

著作権法 第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

著作権法59条は、著作者人格権を他人に譲渡することはできない旨を規定しています。

ここにいう著作者人格権とは、公表権・氏名表示権・同一性保持権という3つの権利の総称です。各権利の意義は以下の通りです。

【著作者人格権の意義】

  1. 公表権
    …未公表の著作物を公表するかどうか等を決定する権利
  2. 氏名表示権
    …著作物に著作者名を表示するかどうか等を決定する権利
  3. 同一性保持権
    …著作物やその題号を著作者の意に反して改変されない権利

例えば、ソフトウェア開発契約における委託者は、受託者が作成した資料などの著作物については、たとえ当該著作物の翻案権等を受託者から譲り受けていたとしても、受託者によって同一性保持権が行使されることによって、当該著作物を改変することができなくなるおそれがあります。

こうした事態を避けるため、契約書においては、例えば「受託者は、〇〇について、委託者に対し、著作者人格権を行使しないものとする。」といった形で、著作者人格権の不行使について定めておくことがあります。

なお、著作権法20条2項3号は、使用機種の変更やバグ修正に伴うプログラムの改変、機能向上のためのプログラムの改変には同一性保持権が及ばないとしています。そのため、プログラムについては、例えば翻案権等を取得していれば、適法にこれを改変できるのが通常です。もっとも、プログラムと他の著作物とを区別せずに、ソフトウェア開発に関する一切の著作物について、著作者人格権の不行使を定めておくこともあります。

最後に

知的財産権に関する取り決めについて不十分な点がある場合、これを短時間で修正することは困難です。また、上場審査において、この点がネックとなることもあります。そのため、スタートアップ企業であっても、知的財産権の取扱いについては、初期段階から慎重に検討しておくことが必要といえるでしょう。

著作権については、今回ご紹介した点以外にも、ソフトウェア開発契約との関係で留意すべき点がいくつもあります。Tokkyo.Aiの知財Wikiでは、今後そうした点についても解説していきますので、ご期待ください。