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JETROイノベーション・知的財産部インタビュー
-知財支援とオープンイノベーションの両輪で事業を支える-

日本の貿易振興に関する業務を行う独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)。現場の企業の声を聴いたからこそ見えてきた知財のビジネス的側面をJETROのイノベーション・知的財産部部長橿本英吾氏、同部主幹粕谷修司氏、同部イノベーション促進課課長吉田悠吾氏に伺った。

知的財産に関する取組み‐情報発信と知財活用支援‐

JETROでは、知財に関して以下に挙げるような多岐にわたる知的財産保護・活用支援を、予防的なものも含めて行っています。

もっとも、JETROは、貿易に関してあらゆる業務を行っているので、知的財産に対する取組みはその一部という位置付けになりますね。

・情報発信

INPITなどの関係機関と連携して日本の企業の海外展開に関して各国の知財情報や、海外ビジネスにおける知財保護の重要性について、セミナー情報発信と普及啓発を行っています。

特に、日本企業の海外展開における知的財産侵害の発生を防ぐため、ウェブサイトなどを通じた情報発信及び普及啓発などの予防的取組みを中心に行っています。国内での啓発活動の他、海外10か所に知財専門駐在員を派遣して情報の収集・発信するなど、日本企業が海外展開時に知的財産のトラブルに巻き込まれないための取組みを行っています。

・権利化・ビジネス展開・模倣品対策・営業秘密対策

海外での権利化、知的財産のプロモーションやビジネス展開を支援するとともに、知的財産を保護するための模倣品対策事業も行っています。

営業秘密対策に関する個社向けのコンサルテーションのほか、中小企業向けに海外での出願費用を補助する取組みも行っています。

これらの事業は知的財産を活用した海外ビジネス進出を促進するため、経済産業省や特許庁から海外ビジネスに強いJETROへ委託があり始まったものです。

これらの中で近年もっとも件数が多いのは出願支援ですね。知的財産の外国出願に要する費用の2分の1を負担する制度で、今年度は179の案件が採択されました。予算の関係もあり、採択件数を大幅に増やすといったことは難しいですが、認知度の向上もあり年々応募件数は増えてきています。

他に件数が多いのは冒認出願対応、つまり外国で自社製品の商標と同じものが知らない人により登録されている場合などにその商標の無効や取消しなどの対応に対する補助です。

また、本部には企業の無料相談窓口も設けており、こちらには随時相談がきます。知財で問題が起きた企業に問題解決のアドバイスをしたり、知財の問題を未然に防止しようとする企業と出願戦略を考えるといった活動を行っています。

地域団体商標を取得した団体の海外展開などを支援する事業も行っています。コロナ前は実際に商品展開する予定の国へ行き、現地のレストランやバイヤーへ紹介するという活動も行っていました。これらの活動では、その食材や展開予定の国の現地事情に詳しい専門家を選定して、専門家・JETROの地方事務所と生産者が連携して販売用の戦略を立てていましたね。

オープンイノベーションの取組みと成功事例

JETROでオープンイノベーション支援を担当するイノベーション促進課は2019年4月から立ち上がった部門ですが、イノベーション・知的財産部全体としては、「スタートアップの支援」や「オープンイノベーション促進活動」など「イノベーション関連」の事業と「知財関連」の活動を両輪で行っています。

日本の事業会社が自社で解決できない課題や自社で開発できない領域に対して、新たな気付きや解決手段を得るため、または新しいビジネスシーズやアイディアを得るために、海外などで活躍しているスタートアップとジェトロがお引き合わせし、新たなイノベーションの創出や課題解決に資するような事業を行っています。

具体的には、日本企業に海外のスタートアップやエコシステムの状況に関する情報を提供したり、海外のスタートアップがもつソリューション・技術(知財)を日本企業に紹介するといった活動です。コロナ前の活動にはなりますが、実際にオープンイノベーションに取り組む日本企業の皆さんを、欧州の先進的なスタートアップエコシステムにお連れし、現地のスタートアップと商談をアレンジするといった取組みも行ってきました。

JETROは中立的な立場故、海外の政府機関やスタートアップ支援機関、アカデミア(大学や研究機関)などともコネクションがあり、日本企業の皆様のニーズにマッチした海外の有望なスタートアップをご紹介することができることも多いです。また、各国で強い産業や分野も異なるので、そういった点も気を付けて活動しています。

例えば北欧ならAI、自動運転なども強いし、ドイツだとIIoT分野やモビリティ分野が強い。日本で需要が増えていると感じるジャンルで言えば、例えば人手不足が建設現場では大きな課題になっていますがヨーロッパやカナダからは日本企業とも連携できそうなスタートアップが多く登場していますし、最近注目が高まっているフードテック系だとスイスやカナダ、香港なども力を入れている印象ですね。

海外スタートアップをマッチングする事業の目玉として、近年は、CEATEC、アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)、大阪のグローバル・イノベーション・フォーラム(GIF)といった日本のテックイベントに、日本企業と協業連携できるような有望スタートアップ企業を招致して、日本企業の皆さんにご紹介したり、商談をアレンジしたりするような活動を行っています。

これまで、CEATECでは「モビリティ」や「ヘルステック」といった、技術分野毎に海外スタートアップを発掘しお呼びしていたのですが、今年は大きく趣向を変えて、日本の社会課題を三つ(環境配慮型社会、労働力減少への対応・生産性向上、都市・地域のバランスのとれた成長)提示し、海外スタートアップコンテストを実施しました。このコンテストで世界中から応募のあったソリューション(解決策)の中から、専門家の審査などを経て、日本にマッチする海外スタートアップ45社(18か国地域)を選定。様々な角度から日本の社会課題の解決につながりそうな、最先端技術、ユニークなソリューションを有するスタートアップが集まりました。

オープンイノベーションといっても、どうしても実現には時間がかかるものですが、このようなジェトロのマッチング事業が功を奏し、徐々に成功事例も出てきています。

1.センスシングスジャパン(大阪)×Motion Gestures(カナダ)

センスシングスジャパンは、画像の処理技術に特化している日本のスタートアップ、Motion Gesturesは指の関節の動きに関する学習データを有すカナダのAIスタートアップです。両者はお互いの技術を融合することで、ジェスチャーのみで家電などを操作できる非接触型デバイスの開発研究を共同でスタートしています。

2.マルイチ(新潟)×Human Bionics(コロンビア) 

クレーン車が入れないような伐採が難しい場所などの特殊伐採技術に特化したマルイチ社は、自社技術をより幅広い領域で活用するため新たなソリューションやデバイスの開発に取り組んでいたのですが、アプリ開発などのノウハウが無く、人材を探していたそうです。

CEATECで、アプリや各種デバイスの開発などに強いHuman Bionicsと商談。その後、業務提携を経て、新事業のために新たな会社も設立されるに至っています。

3.未来機械(香川)×Jetsons Robotics(インド)

未来機械は香川大発のスタートアップで、ソーラーパネルを清掃するロボットの開発を行っている企業です。インドで同分野の製品開発を行っているJetsons Robotics社から、ジェトロに対し「同業の未来機械さんと協業の可能性を探りたい」と熱烈なオファーを頂きました。

担当者としては、同業・競合企業の協業は難しいのではないかと感じていたのですが、同分野に取り組む企業であるからこそ共通言語でお話を進めていただけたようで、試作機を共同開発されています。

オープンイノベーションというと、とかく大企業のイメージが強いですが、このようにスタートアップや中堅・中小、東京だけでなく地方の企業にも広がってきています。日本だけではリソースに限りがあり、海外の企業や人材と、日本の課題解決や新規ビジネスの創出に取り組むことは、益々重要になってきていると思います。ジェトロも、そうした海外とのオープンイノベーションの事例が一つでも多く創出できるよう、活動しています。

「千三つ」の世界でできること

他社との「共同研究」や「オープンイノベーション(協業・連携)」を進めるにあたっては、どのような知財を、どこまで共有するかなど、留意が必要です。企業規模の違いやパワーバランスなど、留意すべきポイントも様々です。例えば国内で大企業と中小企業が協業する場合と日本のスタートアップと海外のスタートアップが協業する場合では、契約内容や言語、管轄裁判所や知財の共有に関する事項など、留意すべき点は異なりますよね。

JETROでは、オープンイノベーションを進めるにあたって、契約締結の留意点といったノウハウや海外のスタートアップエコシステムの情報をご提供するため、昨年から「オープンイノベーション塾」というセミナーを開催してきました。

日本ではスタートアップというと、どうしても大企業と比較して立場が弱いイメージを持たれがちですが、JETROがご紹介する海外スタートアップの多くは、日本の企業と協業できるような成熟したレベルにある企業が多く、「ユニコーン」や「スケールアップ」と呼ばれるレベルの企業も多いです。そうした企業には、大企業のスピンアウト人材や優秀なチームメンバーが揃っており、知財や法務担当もしっかりした企業も多いです。スタートアップが開発した知財が新規事業のコアになるようなケースでは、スタートアップ側が協業相手に対して強い要求をし、パートナーを選別するようなケースもありますので、日本の大企業だからといって優位な契約ができるとは限りません。

また、一言で「提携、協業」といっても共同開発やジョイントベンチャー(合弁会社)の設立、ライセンスや出資など、様々な形態があります。それぞれのケースで、最適な協業方法を見つけ、知財共有や契約内容を詰めていく必要があります。

シードやアーリーステージのスタートアップを中心に投資するベンチャーキャピタル(VC)の方も多いですが、ミドルやレイターステージのスタートアップと協業・連携支援まで行っているような機関や会社はあまり多くありません。中立的な立場で日本企業の皆さんをサポート可能なJETROも是非ご活用いただければと思います。 スタートアップやVCの世界では、よく「千三つ」という言葉も聞きます。これは、1000件に3件くらいしか、スタートアップの投資や協業はうまく行かないという比喩だそうですが、成功のためには多くの企業の情報を集め、話をすることが必要な世界だと思います。JETROも、数多くの海外スタートアップの情報を有していますので、是非海外スタートアップとの商談会やマッチングの機会をご活用ください。

中小企業に「知財担当者」が必要な理由

知財に力を入れている中小企業も多くあることが大前提ではありますが、中小企業の課題としては、知財に対する意識不足があります。毎年いただく相談の内容などを見ても、もう少し知財の意識を持ってほしいと思うものも散見されます。

原因は知財担当者の不在が大きいと思います。知財専任の方はもちろん、兼任でも知財の担当者がいない企業もあります。こういう状態だと企業の方も何を相談すべきかつかみきれないまま相談に来てしまい、JETROの側でもどのようにアドバイスをすべきかを見いだせない、ということもあります。企業の内部でどのような権利をどういった目的で取得し、どう活用するのかということを考える担当の方がいるともう少しお手伝いしやすくなるケースも多いです。

他部署との兼務でもいいですし、専門的なことは弁理士さんなどの外部専門家とやり取りする形でもいいので、「この会社の知財はこの人が担当」という人を決める必要があるのではないでしょうか。全てのことを弁理士さんに丸投げしてしまっている、というような企業さんも多いですが、その弁理士さんがどれほど優秀でも知財に関する組織を社内で全く持っていない状態だと何かあった時に身動きがとりにくくなってしまいます。

また、そもそも自分の会社に合った弁理士さんを見つけるためにも、社内の知財状況を把握する人材というのは重要になってくるでしょう。

専門人材を抱える大企業でも大変な業務ですから、知財の担当を置くことのハードルが高い企業もあると思います。ですが、実際に知財担当者をおいている中小企業もありますし、担当者がいたおかげで自社特許をライセンスできたという事例も聞きますから、自社の知財の情報を常に把握できる知財担当者は重要ですし、有事のことを考えてぜひ設置してほしいです。

経営戦略としての知財戦略

知財の活用を考えると模倣品の阻止や防衛だけではなく、事業戦略も含めた活用をする必要があります。特許は必ずしも相手をつぶすことが目的ではなく、その事業を成功させなければ意味がないので、どの国で、どの商品を売るのか、どの程度のシェアを取っていくのかという目的を組み立てたうえでそこに必要な特許を取得するなど、経営戦略の一つとして知財戦略を立案する必要があります。近年大企業では経営戦略の立案に知財部が入るという事例も増えていますし、中小企業は本来そういった柔軟な対応がとりやすいので、どんどんこのような企業が増えればいいと思っています。

知財のことを考えるとどうしても知財を中心に考えてしまいますが、知財は基本的には商品の展開やビジネスに合わせてどういう選択をするかを考えるものであり、経営戦略の中で活かされるべきものだと思います

企業の海外進出と日本のこれから

現地のマーケットへ進出する企業や、現地パートナーを見つけてビジネスを行うなど、海外進出する企業が増えているので、JETROの業務の中でも知財の重要性は増していると思います。

オープンイノベーションも、国内の課題解決だけでなく現地の課題を解決するための事例も増えてきており、知財をどう守るか、どう共有するかという点は重要性がどんどん増してきていると感じます。

日本は高齢化・人口減少で生産性の向上、ヘルスケアの充実が急務ですが、東南アジアなどをはじめとするほかの国でも、日本に続いて人口の減少が起きはじめています。日本は高齢化・人手不足で世界に先行してしまっているからこそ、日本での業務効率化・ヘルステックでの成果が、世界でこれから人口減少に苦しむ企業の手本となり、それらの国と共同で事業を行うチャンスも増えていきそうです。また、脱炭素・温暖化対策など一国の力では解決できない問題を解決するための国際規模の協業などは非常に増えていく傾向があるように思います。

世界にはいろいろな企業・大学・研究機関があります。例えばエネルギーチェーンに関する分野では大企業同士の協業を視野に入れるなど、イノベーションを起こすためには技術的・地域的側面をはじめ様々な観点を考慮して柔軟な対応をしなければなりません。

JETROは、社会情勢の変化の中で、適切なステークホルダーをつなぐ役割を果たしていくのだと思います。