特許分析とコンサルティング‐統計は噓をつく‐株式会社イーパテント 代表取締役社長/知財情報コンサルタント® 野崎篤志

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■「リサーチリテラシー」を持つことが大事 ‐統計は嘘をつく‐

情報収集・分析、そして活用するためにはリサーチリテラシーが必要です。リサーチリテラシーには情報の「消費者」、「発注者」、「生産者」の3つのタイプがありますが、外部の専門機関に依頼する場合は「消費者」、「発注者」としてのリテラシーを持つことが重要です。

具体的には「消費者」は分析結果を読み解き、理解するリテラシー、「発注者」は何をどう依頼するかのリテラシーです。

目的・要望をハッキリさせず、「IPランドスケープで何かやってくれませんか」のようなスタンスではうまくいきません(当社ではそのようなケースでは、ヒアリングを行った上で丸投げ的なご相談の場合、お断りしています)。

そういったリテラシーをお客様にどこまで求めるかというのはありますが、そもそも統計は時に嘘をつくので注意が必要です。

テレビのワイドショーでよくありますが、グラフ自体の形や比率がおかしかったり、グラフを斜めに表示することで数値を誤魔化すようなものがあったり・・・なのでグラフを見るときにも注意が必要ですし、あとは私が最近問題だと感じているいるのが母集団です。アンケート結果を見るとき、たとえば政党支持率のアンケートなら母集団のn数を気にしない方はいないと思うのですが、特許分析の記事を見る際に母集団検索式がしっかりと開示されているか気にしない方が多いのではないでしょうか。

特許の分析は「こういう結果にしたい」と、母集団の形成を作為的につくることができてしまいます。なので、特許の分析を見る際は、母集団がどのように形成されたかを確認したうえで分析結果を読み解かないと、情報発信側の意図(母集団の操作)に踊らされる可能性があります。

もし依頼するのであれば、検索式やこういう母集団の形成をしましたとちゃんと説明・解説をしてくれるところに分析を依頼するのがいいと思います。

ちなみに母集団検索式というのは専門家のノウハウですので、無料の特許分析記事の場合にすべて開示するわけにはいかないでしょうが、母集団検索式がなければその記事のメッセージを読む際に気を付けた方が良いと思いますね。

■IPランドスケープは魔法の言葉と思っている人が多い?

昨今よくキーワードとして目にする「IPランドスケープ」ですが、実は1970年代にIBMの特許契約部長であったシップマンさんが日本で講演して広まったパテントマップと同じだと考えています。
特許庁の「知財人材スキル標準(version2.0)」のIPランドスケープの業務内容に“知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析”とありますが、過去の特許分析が市場情報を全く調べずに特許情報だけで完結なんてことはありません。なので、これまで特許情報を研究開発活動だけではなく、事業戦略立案や商品開発などに活用しようと取り組んでいた方々にとってはいまさら・・・と感じる方は多いのではないでしょうか。

あと、どうも日本企業は“欧米企業が・・・”というのに弱いですよね。日本企業の中にもプロジェクトXで一躍有名になったキヤノンのゼロックス特許網突破など、情報分析が重要な役割を果たした例もあるんですが。

ただ、知財分析だけではなく分析結果の活用、そして分析結果の共有までを「IPランドスケープ」とキーワード化をすることで経営層や事業部門などに知財の重要性を認知させて、経営に取り込んでもらうということにつながっているといえるのではないかと思います。そういう場合にはトップダウンでIPランドスケープをおこなうことができるというメリットがあると感じています。

■知財のマネタイズ 考え方は2つ

まずは知財は自社の事業・技術を守るためにあるという(キヤノンの丸島儀一先生が強調されています)スタンスが1つあります。

もう一方は、IBMのようにライセンスを積極的に行うことでマネタイズをしようというスタンスです。後者のスタンスだと、日本では最近だと本田技研工業さんなんかも異業種ライセンスなどを積極的におこなっていますが、後者に分類されるでしょう。

■企業が知財のマネタイズを成功させるためには

NPEのような知財そのものが商材である場合を除けば、知財自体に価値があるわけではなく、あくまで知財を使ったビジネスに価値があるのでどれだけ知財をビジネスに活用できるかを思い描けるかだと考えます。
その活用形態が先ほど述べた自社事業・技術の保護かもしれませんし、場合によってはライセンス・売却によるマネタイズかもしれません。個人的にはマネタイズありきというよりは、まず自社事業・技術を保護するところからスタートするのが良いのではないでしょうか。

なおマネタイズする際に重要特許を特定するために被引用回数を利用することが多いのですが、被引用回数が多いから、特許スコアが高いから・・・というのはあくまでも知財視点であってビジネス視点ではない(知財の方は知財が大好きなので、どうしても知財至上主義になりがちだと感じています)点に注意が必要です。この点はまた後で説明したいと思います。

過去に特許売買の仲介等のマネタイズにも関わった経験からすると、米国とは風土が異なり、日本は技術の売り手が多く買い手が少ないという印象を持っています。
原因の1つとしてNot Invented Here(NIH)症候群が強く、エンジニアからすると他社の技術が入ってくるのが面白くなかったり・・・ということもあると思います。最近ではオープンイノベーションを掲げる企業も増えてきましたし、X-Techに代表されるようにテクノロジーが複雑化して1社だけでゼロから立ち上げるのが難しくなっているので、今後は日本企業も特許の売買等もより一層活性化していくことを期待しています。

■特許のスコアリングは本当に信用できる?

先ほど話に上がった特許スコアですが、当社が特許スコアを使うか使わないかであれば、実際の分析・コンサルティングプロジェクトでも使っています。
ただし「使う」場合に念頭に置いておくべきことがあります。まず、特許スコアはビジネス的な視点と完全に同一ではないということ。
ただし、特許に対して拒絶査定不服審判をしていればその企業はその特許を権利化したいんだな、何かしら事業に使いたいんだろうなという意図が隠れていると考えられます。なので、完全に事業の側面がないかといわれるとそうではないのですが、特許スコアが高ければ事業がうまくいくわけではありません。必要条件の1つだと考えるのが良いと思います。

私が特許スコアを利用する際の1つのやり方としては、自社のコア技術の見極めや自社保有特許の棚卸の際に、分析母集団の中で、

・自社がその特許をどれだけ使おうと考えているか、注力しているか

という自社注力度合いと、

・他社がどれだけその特許に注目しているか

という他社注目度を2軸のマトリクスで分析します。

この自社注力度と他社注目度の2軸マトリクスを組むと、

①自社が注力していて、他社も注目している技術【明らかに価値の高い強い技術】

②自社は注力しておらず、他社が注目をしている技術【他人に譲渡してもよい技術】

③自社が注力していて、他社が注目していない技術【自社のコア技術】

④自社が注力しておらず、他社も注目していない【放棄してよい技術】

が浮き彫りになります。

②の場合は特許自体を売るか、ライセンスをすることが考えられます。

ここでいう他社注目度は被引用や、異議申立て、情報提供、包袋閲覧請求がされているなど、他社がその知財に対してどういうアクションをとっているかを分析することがポイントになるといえます。

特許に馴染みがないかただと、こういったスコアとして提示されると分かりやすいということはあるかもしれません。もちろん、新規事業として取り組んでいる場合、自社注力度も他社注目度もまだ高くなく、特許スコアが低く出てしまう場合があるので、事業的な視点も加味しながら分析結果を検討することが重要であることは言うまでもありません。

ただ、特許スコアを利用する際に気を付けなければならないことがあります。

それは、特許スコアが有効な業界とあまり有効ではない業界があるということです。

たとえば、ニッチな寡占分野の会社の特許だと被引用がほとんどなかったり、非常に少ないこともあるので、仮に強い特許だったとしても被引用の点数が入らず、スコアが低く出てしまうということがありえます。

あるいは、相当強い技術だと競合他社が回避してしまうので被引用回数も少なくなってしまいます。でも被引用回数が少ないからといって弱い特許と一概に判断することはできません。

一方、MaaSや自動運転のような引用・被引用が多く発生するテクノロジー領域は参入企業も多く、競争環境が厳しいということもあります。特許スコアだけで見極めるのは難しいので、ビジネス面の諸事情も含めて検討をしていく必要があります。

■特許から将来予測。競合他社や業界全体の分析

実は特許情報から企業が将来何をしようとしているかというのをある程度見ることができます。

例えば、ベンチマークしている企業が、今まで出願したことがない分野で特許出願しているのを捉えることで競合他社の将来動向の目星を付けます。もちろん、特許が公開されるまでの1年半というラグはありますが。

以前、日本知的財産協会の知財管理誌にも投稿した例になるのですが、ホンダさんのアシモは発表前に二足歩行ロボットについてある程度まとまった数の特許が出願されていました。これを発見したら、ホンダさんがロボットを作ろうとすることは予測できたと思います。ただ、二足歩行ロボットを開発するということは予測できただろうけど、それを使ってどんなビジネスをするのかを予測するのは特許情報だけでは難しいと思います。

別の方法としては最近技術領域がクロスオーバーしていることに注目する方法もあります。

たとえば、繊維など素材系など今までデジタルとは縁遠かった業界・業種の特許にG06FやG06Tのようなデジタルデータ処理技術についての特許分類が付与されていると、ウェアラブルデバイスではないか?など、特許分類をとおして新しい分野のコンビネーションを見い出すことができます

■今後の知財業界の展望と注目分野

情報の時代、知恵の時代と言われて久しいですが、情報・知恵を法的に守る知財は今後ますます重要になってくると考えています。一方で、AIやRPAのような業務効率化ツールも登場しているので、定型的な業務の付加価値はどんどん下がり、人間ならではの業務ができる人しか生き残れないと考えます。

知財情報コンサルタントという仕事柄、B2C・B2Bなど様々な業界・業種およびテクノロジーに触れるので、注目している技術を1つ選定するのは難しいですが、注目している分野としては、従来の〇〇業界といったくくりではないクロス領域です。

IoTなど、いままでデジタルとは縁がなかった業界・業種がテクノロジーでどう変革されるのかというところがポイントと考えています。

あとは、AirbnbやUberのように、ホテルやタクシーというアセットを持っていない企業が従来の業界構造を破壊するようなパラダイムシフトですかね。メルカリのようにいままでアナログでやっていたフリマにデジタルが参入する意外性も面白いですね。

■知財業界を志す方へ

知財業界の中で人数が最も多いのが出願・権利化担当であり、知財業界に入る方は弁理士を目指す方も多いと思いますが、私がやっている分析・コンサルティング以外にも知財業界の仕事は様々ですので、ぜひ出願・権利化以外の業務も含めて知財業界というものを見ていただきたいと思います。

知財業界についてはこちら

業務としては、大きく出願・権利化業務、訴訟業務、ライセンス業務、情報(調査・分析)系、そして管理系に分かれます。

いずれの業務にせよ、これからどんどん情報へのアクセス性・網羅性が高まり、より簡単に入手できるようになるので、これをしっかりと調べて、検索結果として出てきた情報を分析して、どう活かすかという点が重要になってきます。なので、情報(調査・分析)系だけでなく、出願・権利化の業務についても少なくとも前述のとおり消費者・発注者のリテラシーが必要にはなってくると思います。

また私のようなお客様へサービス提供する側からすると、これからの時代は大企業からのバルクで業務というのはAIやRPAに取って代わられて、特許事務所や特許調査会社それぞれのユニークな強みで競争する時代になるのではないかと思います。

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【株式会社イーパテント】 http://e-patent.co.jp/

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