産学連携のニュー・スタンダードで社会課題と技術の架け橋となる
― ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 弁理士 片山 晴紀

コーポレートガバナンスコードに知的財産が入ってくるなど、日本における知財に対する意識が大きく変わる「意識改革元年」となった2021年。
今回はユニークな産学連携体制で研究成果のスピーディーな社会実装を武器とするピクシーダストテクノロジーズ株式会社のIP&Legal Team の弁理士 片山 晴紀 氏にお話を伺いました。

ピクシーダストテクノロジーズ社のコアは「ニーズドリブン」

― 御社の事業概要について教えてください。

弊社はさまざまな事業を行っていますが、全体としてはアカデミア発の技術を連続的に社会実装する仕組みを作ることを目指して、各事業を推進しています。

具体的には、産学連携により大学から技術を仕入れてきたり、最新の技術論文から技術を引っ張ってきたりと、社内にさまざまなシーズをためつつ、市場や顧客企業から社会課題(ニーズ)を発掘しています。そして、発掘したニーズに対してどんな技術が使えるかというのを考えながら技術開発をしていき、最終的にシーズとニーズを繋げて新たなプロダクトやサービスを生み出す事業をやっている会社になります。

― 現在どのような技術に力を入れていますか?

弊社は波動制御(光・音・超音波)技術を強みとしています。

今は特にWorkspace領域、Diversity & Health care領域に特に力を入れていて、波動制御やセンシング技術などを使って、空間がもつ課題・健康と多様性に関する課題を解決するための新しい技術を開発し、その社会実装を目指しています。

Workspace領域の技術としては例えば、「magickiri™」というサービスがあります。これはコロナウイルスの流行をきっかけに開発した感染症対策BCPソリューションで、気流をシミュレーションすることで空間における感染リスクを評価して空間レイアウトの改善をコンサルティングすることができ、技術の実証実験も数多く行ってきました。また、無線デバイスの保有者の行動をモニタリングすることで濃厚接触の予防をすることもできます。

― 他にはどんなプロジェクトがあるんですか?

全部紹介していると時間が足りないくらいたくさんのプロジェクトがあるんですが、簡単に紹介させていただくと以下のようなプロジェクトを進めています。

※画像クリックでサービスページに飛ぶことができます。

まずは「KOTOWARI™」というプロジェクトです。

これは空間データのセンシングや可視化により種々の現場でのDXを実現するためのプラットフォームを提供するサービスで、例えばデジタルツインの構築などに活用されています。

あとは「iwasemi™」というプロジェクトもあります。メタマテリアル技術を用いた吸音構造により、素材を選ばず任意の周波数の騒音を低減できる吸音材をつくることができます。従来では難しかった低周波の吸音率が高いのも特徴です。

また、Diversity & Health care領域では、「SOUND HUG™」という耳が聞こえない人に音楽を楽しんでもらうためのプロダクトもあります。

これらのプロジェクトは全体のほんの一部になります。他にもたくさんのプロジェクトが走っていますので、詳しくはホームページを見てみてください。

HP:https://pixiedusttech.com/

社会実装を行うための特許戦略

― 複数のプロジェクトを実行するにあたり、特許戦略をどのように考えていますか?

弊社では複数のプロジェクトが並行して走っており、プロジェクトごとに技術も違いますし市場環境やビジネスモデルも違うので、それぞれの事業戦略を実現することと、他社に対する競争優位性をどうやったら築けるかということを考えながら特許戦略を進めています。

例えば、「iwasemi」であれば、市場にまだ存在しない新しい吸音材で、プラスチックであろうが金属であろうが素材に左右されずその構造で吸音することができ、幅広い分野に実装可能だと考えています。

現在はいくつかの企業と実証実験を進めている段階ですが、今後これをいろいろなものに応用していき、将来的には「インテル入ってる」と同じように「イワセミ入ってる」で世間に通じるようになりたいです(笑)
こういった背景から、「iwasemi」の場合はさまざまな業界に幅広く展開していく中で使える権利を想定して特許化を狙っています。

他には、聴覚障害の方向けに字幕を出せるスマートグラスを開発しています(参考:「難聴者向けに会話を字幕表示 大日本住友製薬とピクシーダストテクノロジーズがスマートグラス開発へ」 出典: https://www.moguravr.com/ds-pharma-pixiedusttech-smartglass/ )。
知財戦略との関係でいうと、スマートグラス自体には先駆者もいますし、音声を拾って、その拾った音声を元に文字を映し出すという基本的なアイデアは従来からあるので、その技術自体の権利化は困難です。

一方で、本プロジェクトでは難聴者にターゲットを絞っているので、難聴者が実際に使ったときにどうあれば使いやすいかという「ユーザビリティ向上に特化した具体的な工夫」というところにフォーカスして特許取得を狙っています。

事業は幅広く展開していますが、プロジェクトごとに、競合となる他社がどういう状況か、何を狙っているのかを分析したうえで、戦略的に特許を取ることを心掛けています。

― プロジェクトごとの体制はどのような感じですか?

社内の知財担当は2名で、プロジェクトごとにどちらかの知財担当をアサインしています。現在従業員約70名で多数のプロジェクトを同時に進めているので、開発者も1人で2~3つのプロジェクトを抱えているという状況です。

― 御社の知財の強みは?

特許を取ることだけに近視眼的にならず、ビジネスの成功を支えるための全体最適を意識して知財業務を行っているところが強みだと思っています。

弊社は、プロジェクトごとに知財担当が分かれているんですが、担当者は特許の権利化だけでなく共同R&D契約などのビジネス契約のドラフトやレビューも行います。知財担当者は、どういう出願ができているかといった自社特許の出願状況や戦略を把握できていますし、同時に先行技術調査も行って他社の状況も把握しています。それらの状況を総合的に熟慮したうえでビジネス契約の内容をレビューしたり、どのように契約内容をFIXさせるかという判断ができるので、この体制も弊社の強みにつながっています。

知財担当と契約担当が分かれていないことで、別々の担当者がいる場合に生じる情報共有のためのコミュニケーションコストもかからないので、非常にやりやすいですね。

― 特許の権利化と契約法務を両方やることのメリットはどういうところにありますか?

知財業務で得た学びがビジネス契約を締結するときに生きることもありますし、契約法務をやっていたことで、あらかじめどういう特許を取った方がよかったかなどが見えてくることもあるのがメリットですね。

また、1つのプロジェクトは、技術者と事業開発担当者のチーム体制で進められています。特許出願関係の業務は技術者と、契約業務は事業開発担当者と仕事をするので、そのプロジェクトを全体として俯瞰できるのが弊社知財部のいいところだと思います。

個別の特許取得に際しては特別なことを考えているわけではなく、先行技術を調査して、自社と他社がやりそうでかつ特許になりそうなものを取得するという基本に忠実な方針を採っています。ただし、限られた予算の中で、発明発掘と出願を注力して行うべき領域を選択していく際に、プロジェクトの事業戦略や他社との契約状況などを考慮して進めています。弊社の知財部門に割かれている予算は他のスタートアップよりは多いと思いますが、アイデア全てを出願するというような、そこまで無尽蔵にというわけにはいかないです(笑)

― 知財と法務を両方やったことによる気づきはありますか?

ピクシーダストテクノロジーズ社に来る前に働いていた企業では特許権利化業務がメインで、契約関係はほとんど勉強したことがなかったため経験から学んでいきました。担当の案件では共同R&Dが多かったので、権利帰属が問題になることが多く、さまざまな事情からすべてを自社帰属にはできないような状況において、どういう特許を取るべきかを考えないといけないことに改めて気が付きました。例えば特許が共有の場合、自社では使えても、他社へのライセンスは自由にできないのが基本なので、権利範囲が広ければ広いほど良いというものでもないのではないか・・・など、契約形態を意識した特許取得について考えることも増えました。

知財に関して弊社は、特許だけにこだわりすぎず、著作権・データ・ノウハウなどの特許以外の知財も重視するスタンスを取っています。協業の契約などに際しても、特許は一部譲って特許以外の知財を自社に留保するという発想があるとお互いにとってより良いビジネスができるようになるのではないかと考えています。

社会的ニーズと研究機関のシーズの間をつなぐ

― 契約はスムーズにいきますか?

なかなか交渉に時間がかかるケースもあります。

弊社は技術の連続的な社会実装を重視しているので、契約にあたってもできるだけ技術の使い道が1つの取り組みに制限されたくないというのがあります。なので、「○○社だけと開発をする、取引をする」というような契約には慎重になります。

契約相手は独占的に事業を行いたいと考えている場合も多いので、落としどころを見つけるための契約交渉にかかるコストが大きくなることもありますが、そこは妥協せずに取り組むべきところだと考えています。

いい技術を社会的なニーズに合わせて開発して使えるものにすることに弊社の存在意義があると考えています。いい技術もそれ単体で存在しているだけでは社会課題の解決につながらないケースが多いので、社会課題を解決できる形で社会実装していく、技術と社会のニーズの間を埋めるのがピクシーダストテクノロジーズ社の役割だと考えています。

― 大学との共同研究で生まれた知財が御社に帰属するという現在のモデルはどういった経緯で確立されたのですか?

筑波大学や東北大学との特別共同研究の契約で取り入れている仕組みですが、これは弊社の創業者である落合と村上が発案したものです。従来の産学連携だと権利配分を決めて共同出願をしてライセンス契約をして・・・という手続きがあり、これにすごく時間がかかっていたという課題がありました。その時間を短縮するために編み出したスキームです。

仕組みとしては大学で発明が生まれ、その発明が完成した時点で自動的に弊社に権利が移転する。知財が100%弊社にくるかわりに大学に対してストックオプションを付与しています。
なので、その知財が弊社に来て、それにより企業価値が上がれば、それがストックオプションの価値向上という形で大学側に還元されるということになります。こういう方法を編み出したのもその一例ですが、やはりトップの知財意識が高いことも弊社の強みだと思っております。

「Pixie Nest ™についてお聞かせください

役割としては、会員企業や自治体の課題・社会的なニーズを集め、最新の技術や知見のシーズを共有し、それらをマッチングさせて課題を解決するための方向性を見出すところを担っています。

具体的には、会員を集めてディスカッションをする会を2か月に1回程度行っており、社会で注目されている課題や会員からあがった課題に対して有識者や技術保有者から知見を集めて解決策を探ります。

そこでニーズとシーズをマッチングすることができればいいですし、ニーズとシーズにギャップがある場合は、弊社でそのギャップを埋めるサポートをすることができればと考えています。

― 今後の事業展開についてお聞かせください

社会課題を解決するための様々な技術を連続的に社会実装することを重視しています。現在の事業を大きくしてより社会へ広げていくことにも力を入れつつ、新しい社会課題の解決策を生み出し続けていくことを目指します。

現在は、Workspace領域、Diversity & Health care領域が弊社の強みを活かせる領域なのではないかと考えています。これらの領域にはまだ解決ができていない社会課題が多く埋まっていると考えており、その課題を解決するためのプロダクトを社会に出していくことになると思います。

【会社概要】

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

代表取締役 落合陽一 村上泰一郎

設立 2017年5月10日

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