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「知財の力で変える未来 富士通の知財マッチングと社会課題へのソリューション」富士通株式会社 インタビュー

◆知財グローバルヘッドオフィス 知的財産戦略室長 大城 貴士氏
◆知財グローバルヘッドオフィス 知的財産戦略室 マネージャー 弁理士原田 敬志氏

知財との出会い

大城 氏:

もともとはSE職であった私が初めて知財と出会ったのは、特許部に配属された2002年頃になります。その頃はちょうど「ビジネスモデル特許」というキーワードが報道等で大きく話題になっていたのですね。

SE職の頃は、世の中でシステムが動いていない休日や夜中やゴールデンウイークに業務にあたるなどしていて、私も含め現場のSEは額に汗していたものの、ビジネスとして勝負する点は価格や工数が中心となっていました。

当時の私が関わっていた医療システム業界分野においても、「特許」の二文字が新聞の紙面を賑わせていたのを見て、「これってもしかすると、いま自分を含めた現場のSE達が行っている業務や技術力が価格競争力につながっていくような変化が起き始めているのではないか?」と感じました。当時は特許や知財の知識はまったくなかったのですが、感覚的に「知財の時代が来る!」と感じて、特許の世界に飛び込んだのです。

折しも、全社方針としてソフトウェアに注力していこうという時期。

特許部も「ソフトウェアの知識を持っている人材が欲しい」「若い人材が欲しい」ということで、SEとしての知見のある私はちょうどフィットして、特許部への配属が叶ったのです。当時の特許部は、私が一番年下でしたね。

原田氏:

私は、父が弁理士だったため、幼い頃から知財の仕事は面白そうだなと感じながら育ちました。

弁理士資格を取得し、まずは父の特許事務所に数年ほど勤めてから、現職に転職しました。

特許事務所時代に出願代理や審判・訴訟代理を中心に手がけていたのですが、企業が知財権取得や特許訴訟に踏み切る背景にどういったビジネス判断があるのか、企業内に飛び込んでみないと十分には見えてこないと感じたのですね。

企業において、取得した知財がどのように役立つのか、またどのように使うべきかといったことを、もっと実態に踏み込んで理解したい。そのように思ったことが、特許事務所から企業知財部へ入ったきっかけですね。

知財部門の魅力

大城 氏:

さまざまなジャンルの技術に触れられる点は、やはり技術好きにはたまらない魅力の1つです。最初に知財部に飛び込む入口としては、特にそうだと思います。

私に関しては元SEということで情報処理分野がもともとの専門でしたが、知財の世界に入ったことによって半導体やレーダー、化学分野など、自分のバックグラウンド以外の分野に触れることができました。

しかしそういった面白さは、知財部門の面白さのいわば入口の部分であり、そこから一歩進むと、さらなる魅力が見えてきます。

それは、幅広く全社的な戦略策定に携わることができるということ。

例えば、会社が投資していく技術に対し、我々知財部門はどのような作戦で権利取得していくのか。

また、技術戦略の裏にはビジネス戦略・経営戦略があり、経営戦略のなかにおける技術戦略の位置づけを把握し、そこに立脚して知財戦略はどうあるべきかを策定することも重要です。

また逆に、知財戦略の立場から経営戦略に対していかなる提言をするか、という点も重要かつ非常に魅力的な仕事ですね。

とはいえ、こういった戦略面が知財部門に求められるようになったのはここ数年のことかと思います。

従来は知財部門に求められることは出願権利化が中心でした。すなわち、“訴訟で負けない特許”、“他社の権利を踏まない特許”、“自社特許が侵害された場合の適切なエンフォースメント対応”といったものが、かつての知財部に求められるマインドセットだったのです。

私は約20年以上に渡り知財部門に属していますが、時代に合わせて求められる知財人材が変わってきているように思います。

世間の動向や、「特許とは何のためにあるのか?」を突き詰めていくと、経営やビジネスなどの戦略面にかかわる作戦を立てる人材が求められていることがわかります。

しかしもちろん、土台の部分に知財の専門性を備えている事は必須です。

“知財がわかる”といった専門性の根っこの上に、“経営がわかる”、つまりは“両方がわかる”ことが求められる時代。

魅力的な仕事であると同時に、難しいものが求められる部門であることは間違いないですね。

原田氏:

知財部門の魅力として、出願対応を通して、新しい技術や面白い技術に触れられる点は非常に大きいですね。

他部門とのコミュニケーションを重ね、技術への理解を深めた先に、権利を取得でき、さらにそれが実際にビジネスに役立つとなると、喜びもひとしおです。

また知財紛争の対応に関して言えば、確実な業務遂行を行うことで会社のビジネスを守る、大きな意義を果たせるというやりがいを感じます。

また出願権利化や訴訟対応といった典型的な特許実務家業務だけではなく、最近は、他社と連携してビジネスを作っていくことにも取り組んでいます。より友好的なライセンシーを築き、会社の新しいビジネスを作っていく知財マッチングの取組ですが、詳しくは後述しますね。

SI企業における知財部門の難しさとポイント

大城 氏:

富士通に限らず日本のSI企業の特徴になるのですが、業態上 必然的にお客様のビジネスの業種が非常に多岐に渡ります。そうなると、さまざまなお客様の業務システムをご提供するにあたり、当然ながら多種多様な技術への理解が必要になり、常に新しい技術を勉強しながらビジネスを進めることになります。

これは一例ですが、お客様が保険会社であれば我々から保険の発明が登場しますし、

お客様がパン屋さんであれば、我々からパン屋さんの発明が出てくる、といった具合に、社内からの発明の技術領域が多種多様になるのです。

とはいえ業務システムの構築・ご提供という面で捉えると、骨となる業務システムにかかる部分では概ね似ている部分も出てきます。

そのようなときに重要になるのが、お客様がお持ちの課題をどう掴むか、いかに聴き出すか、ということ。どこにどのような課題があるのかを把握し、何を解決するかが大切ですね。

ソリューションに関連する特許は、課題の新しさからこそ生み出されます。

そのため、知財人材に求められる能力としては、技術部分よりもまず先に、お客様の課題を聴き出すことに面白味を見いだせるかがポイントになるのです。

一方で、もちろん基礎技術への理解が必要・重要になる分野もあります。代表的なものはハードウェア分野ですね。そういう分野は特に、技術の専門性を磨いている人材でないと対応が難しいと思いますね。

富士通の知財部門体制について

(引用元:富士通株式会社コーポレートサイト:https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/intellectualproperty/purpose/ )

1.「知財グローバルヘッドオフィス」

富士通の知財部門の体制としては、まず「知財グローバルヘッドオフィス」という部署で、知的財産に関わる全社的に共通のサービスを担っています。

この「知財グローバルヘッドオフィス」の下に、「知的財産戦略室」「知的財産センター」「知財インテリジェンスサービス室」が置かれています。

2.知的財産戦略室

私たちが在籍している「知的財産戦略室」では、全社の知財方針の策定・推進を行っています。

また意匠や商標の権利化、権利行使、さらに国際標準活動のほか、全社的技術戦略に踏み込む大きな視点での知財分析を行っています。

いわゆるIPランドスケープは技術のターゲットを決めて行うのが一般的かと思いますが、それよりももっと大きな、よりマクロな分析を行っているということですね。

また知財ライセンス、パテントプール、さらに特許渉外も担っています。

3.知的財産センター

「知的財産センター」は、従来のいわゆる特許部に該当するイメージで、特許ポートフォリオの構築等を担います。

事業部門や開発部門が新しい発明等を行った際に、明細書作成を行うのもこちらです。商標や意匠についての相談もいったんはこの部署で受けて、必要に応じて知的財産戦略室に案件が回ってくるといったイメージです。

4.知財インテリジェンスサービス室

いわゆる一般的な意味のIPランドスケープを行うのはこの部署になります。またおもしろいのは、地下にある図書館も“インテリジェンス”であるということで、こちらの管轄範囲となっています。

5.「法務知財ビジネス推進センター」

法務や知財といった分野は非常に専門性が高いため、社内の現場サイドが何らかのご相談事項を抱えた際に、それが法務マターなのか知財マターなのかすぐにはわからない事も多いのですね。「この課題をどの部門が担うのかわからない」状態でもすぐに駆け込めるような、現場からのご相談をまず一次的に受けて質問できる部門です。

「お客様からNDAを結んで欲しいと言われたのだけれどどうしたらいいか」であるとか、

「動画を作成したところ有名な建築物が映りこんでしまったのですが、大丈夫でしょうか?」といったご相談が寄せられるイメージですね。

知財部門×各事業部門タッグでの知財活動サイクル

法務知財ビジネス推進センターの中において、各事業部門に対応する知財戦略の担当者を定めています。全事業部門のそれぞれについて割り当てられている形です。各事業部門は、まずは「担当者」に相談する仕組みになっています。

また各事業部門においても、その事業部門の責任者等に「知財戦略責任者」になってもらっています。その事業部門特有の知財戦略について責任をもって担ってもらう体制です。

さらに「知財戦略マネージャー」を置いて実際の知財戦略の推進活動を行っています。

各事業部門の知財戦略責任者と、知財部門とで、年に2~3回ほど、各年度毎やあるいは半期毎などのスパンでどういう知財アクション・知財活動を行うのかという知財計画を立てた上で活動する、そしてその所定期間が終わった後にフィードバックするというサイクルを回していきます。富士通は現場が強い会社であることもあり、これはボトムアップの作戦として非常に有効であると感じます。

共創に向けた知財活用の取り組み ~FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs~

富士通グループでは、SDGs達成に貢献する特許やノウハウなどの知的財産の一部を開放し、企業・学術機関にご活用いただく取り組み「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」を推進しています。

「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」は、大きく二つの異なる活動の流れを汲んでいます。

1つは、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する環境技術やサービスの移転マッチングの枠組み、「WIPO GREEN」です。

「WIPO GREEN」においては100か国以上で2,600件を超える環境技術やニーズがデータベースに登録されており、富士通株式会社の技術もまたこのWIPO GREENに登録され、グローバルに公開・活用されています。

ひらたくいうと、環境のために弊社の技術を使っていただくということですね。

もう1つが、国内の地方公共団体や地方の金融機関様が行っている知財マッチング活動との連携です。富士通発の技術を地方創生に活用していただく取り組みになりますね。

▼FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs

https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/intellectualproperty/co-creation/

知財マッチングの実例 ~「マスク用フレグランスクリップ」~

東京大学先端科学技術研究センターと共同開発した新しい光触媒材料(チタンアパタイト)という抗菌材料の活用に成功した事例がこちらです。

▼抗菌・消臭作用のある光触媒材料、チタンアパタイトを使った「マスク用フレグランスクリップ」(https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/intellectualproperty/co-creation/case-studies/mss/

(【代表特許:特許3928596号】)

この抗菌材料チタンアパタイトは、当社がパソコン(PC)の製造販売業を行っていたことから、キーボード部分の抗菌性を高めるための研究活動の過程で生まれました。

手指に密接に触れるボールペンや、石鹸のほか、マウスピースなどの中にチタンアパタイト粉末を練りこむことで、抗菌性が高まることが期待できます。

知財マッチングの実例 ~昭和女子大の学生の活躍~

また昭和女子大の学生さんが当社特許を活用したビジネスを発案しベンチャー企業を立ち上げた事例がこちらです。

▼在学生が起業したベンチャーが挑む、赤ちゃん見守りシステム「Tapirus(タピルス)」

https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/intellectualproperty/co-creation/innovator/swu-univ/

(【代表特許:特許5935593号】)

こちらは富士通のバイタルセンシング関係特許を赤ちゃんの見守りに応用するという大学生のアイデアから生まれた連携の1つですね。

https://www.fujitsu.com/jp/microsite/fujitsutransformationnews/2021-10-25/01/

知財マッチングのポイント

特許の専門家でない方々(例えば中小企業の経営者など)に技術内容をいかにわかりやすく理解していただくかがポイントです。

また難解な技術よりも、わかりやすい技術内容や使いたくなるような技術内容を選ぶことも、知財活用を促す上で重要ですね。

知財マッチングにより有用な技術を開放して様々な方に利用いただけるようにすることは、世の中の初期開発のハードルを下げます。たとえば、中小企業さんがゼロからの技術開発をする必要をなくして自社製品を世に出してビジネスを進めることを容易にする効果があります。

こういった活動を通して感じることは、知財の使い方が、従来型の知財活用から徐々に変化しているということです。社外の方々との共創を促進して、エコシステムをいかに設計していくかという点に知財権を持つ意義が移ってきているのかなと思います。

従来型の知財ライセンスでは、ライセンサー側とライセンシー側でライセンス料等を中心にシビアな交渉を行う例も多く見られたかと思いますが、我々が取り組む知財マッチング活動では、ライセンサー(富士通グループ)とライセンシーとの間で目指す方向が同じであるからこそ、知財マッチングがうまくいきやすいというのもあります。

例えば地方自治体や地方金融機関とのマッチングにおいては、「なんとか地元に元気になってもらいたい」という同じ方向を向いている、といったことですね。

また将来的には、ライセンス先単独で当社技術を活用した商品・サービスを展開していただくだけではなく、富士通とビジネスを一緒に創出して下さる相手が、この取り組みの中から出てくることを期待したいという目的もあります。

さらに日本にとどまらず、海外の知財拠点がある地域を中心として、スタートアップ企業等に当社の技術を活用いただくことにより、グローバルな共創促進のネットワークを構築していく取組も行っています。

“FUJITSU Technology Licensing Program for SDGs”のブランドを掲げ、富士通グループの知財を開放して第三者にライセンスする、新しい共創のカタチ。

「開放特許」活動を推進する取組を行い、またブラッシュアップしていくことによって、社会課題の解決に繋がる新しい製品や価値が次々と生み出されていくのです。

▼富士通株式会社:https://global.fujitsu/ja-jp/

▼FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs:

https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/intellectualproperty/co-creation/