デジタル技術を活用したビジネス変革や社会課題の解決に向けて、お客さまとともに未来を見つめ、さまざまなサービスを提供し続けているNTTデータ。
今回は、NTTデータ 第二金融事業本部 デジタルチャネル推進室 システム企画担当 課長代理の弁理士 西山 彰人 氏にお話を伺いました。
知財との出会い
知財との出会いは、新入社員の時に配属された部署に弁理士資格を持つ先輩がいて、話を聞いたのがきっかけです。
私が入社した2004年がちょうどおサイフケータイが発売された年でもあり、これから大きなムーブメントになろうとしていました。
当時、PDAと呼ばれるモバイル通信端末を愛用していたこともあり、これからはモバイル端末が面白くなりそうだなあと感じ、おサイフケータイに関われる部署を希望し、縁あって配属されました。
この部署は、ICカード技術に関連する専門家が揃っていて、収益性も高く、非常に勢いがありました。競争力の高いコア技術があるとこんなにも有利にビジネスを進められるのか、とこの部署にいられることを誇らしく感じていました。
しかし、、、やはり流行り廃りには抗えず、徐々にビジネス規模が縮小し、専門家は別の部署に異動し始めました。当然、専門家が有するノウハウも他組織に分散するため、ノウハウを持ち寄った創造活動がしづらくなります。
この時、自分にもっと力があったら、いつかブームが再来した時に備えて、この優秀な専門家が集まっている間に、様々なノウハウの掛け合わせによる創造活動を行い、得られたアイデアを部署の資産として蓄積しておきたかった、、と感じました。
こんなことを考えている時に、部署の先輩が弁理士資格を持っていることを偶然知り、話をしているうちに、アイデアを可視化して会社の資産として守ることが出来る特許に興味を持ったんです。
その先輩からは、オープンクローズ戦略に代表される知財戦略等、色々と教えてもらいました。話を聞いているうちに、知財全般に興味が湧き、弁理士でもないのに弁理士会セミナーに参加したり、様々な知財に関する書籍を読むにつれて、自分が抱えている問題認識は知財の知識で解決できる、と感じて弁理士資格を取ることにしました。
特許情報が新規事業創出に使えると気づいたきっかけ
弁理士資格を取って特許情報をたくさん読むようになり、明細書に書かれている「課題」が新規事業創出アイデアのヒントを得るのに非常に使えるなと気づきました。
現在は、中小企業の経営支援サービスの企画をしています。企画立ち上げをするためには、まずユーザーが困っている課題を探さなければなりません。
例えば○○白書などを読むと、綺麗に抽象化された課題に接する事ができます。一方で、現場の空気を感じる事ができる具体的な課題ってあまり出回ってないと思います。
「中小企業のIT導入が進んでいない」くらいなら様々な媒体に書かれています。でも、「なぜ進んでいないのか?」とか「IT導入にネガティブな現場の本音」等は、あまり世に出ない。それ故に新規事業担当者は、解決すべき課題を見つけるのに非常に苦労をしています。
そういう時に、僕は特許情報を活用します。特許情報である明細書には課題と解決手段がセットで書かれているので、より具体的な課題を知る事ができます。
もちろん、時間的には現場の方へのインタビューや関係者とのディスカッションをする方が多いですし、特許情報は課題を発見する一つのきっかけでしかないです。ただし、このきっかけが重要だと私は感じています。
様々な企画担当者を見ていると、インタビュー等の前段階で行う、課題仮説立案で躓いている人が多いと感じています。自分も納得する仮説を立案できていないからふわふわした状態でインタビューを行う。すると、相手も的を得ない回答しかできない。こうならないためにも、課題仮説立案はある程度しっかり行う必要があります。
とは言ってもユーザーが感じている、現場の具体的な課題を分かりやすく表現した情報が、都合良く世に出回っているわけではないので、様々な断片的な情報に含まれる単語の一つ一つから想像力を膨らますことが必要になります。そういった意味で、特許情報は様々な検索手段が用意されているので、想像力を膨らませられる単語を拾うのに非常に適していると思います。
初期のアイデア創出に困っている人こそ、特許情報に触れたらいいのに、、、と感じます。
サービスの磨き上げにも特許情報は活用できる
特許情報等を活用しながら解決すべき課題をある程度決めたら、想定ユーザーもその課題を感じているか、実際にヒヤリング等をしながら検証をします。
ユーザーも課題を感じていないと、サービスを利用してくれませんし。なので、その課題を本当に解決すべきなのか否かという見極めをヒヤリングを通して行います。
ユーザーもその課題を感じていることを確認できたら、次にその課題の解決手段を考えます。自分で考える場合もあるし、公知情報はもちろん、ここでも特許情報を参考にする場合があります。
公知情報としては、例えば中小企業診断士のブログで「この課題にこういう専門スキルを使ってアプローチしています」という情報を見つけたとします。その記事を見ながら「専門家が行っている高度なアナログ作業をIT化したらどうだろう?」と参考にすることがあります。
特許情報の活用方法としては、例えば検討中の課題にアプローチしている特許を見つけたとして、「この発明の課題解決手段の問題点を考えて、ユーザーが今以上にもっとメリットを感じる解決手段を考えなければ」と解決手段を磨き上げるきっかけにしています。
新規事業開発は、越えるべき壁をあらゆる手段で発見し、そしてその壁を越え続ける戦いでもあります。普通の人が普通に考えるレベルのサービスでは競争に勝てません。普通の人が普通に考えるレベルをいち早く把握し、そのレベルを遥かに凌駕するサービスに磨き上げていくためにも、公知情報や特許情報を徹底的に活用します。
もちろん、目的はユーザーの満足度なので、解決手段の磨き上げの途中で何度も何度もユーザーにヒヤリングをして、自分が進んでいる道は誤っていないか、を確認しながら進めます。この時、ユーザーの主観的な意見だけではなくて、ユーザーを客観的に見ている、今の企画に関して言うと、中小企業診断士、金融機関、行政機関等の支援者にもインタビューをします。
なぜ、客観的な意見が必要か、というと、同じ問いかけでも、真逆の回答が来ることがあるからです。例えば、中小企業の経営者はこの課題に取り組むべきだ、と支援者が回答したとします。一方、この課題に取り組むのは現実的に難しい、と経営者が回答したとします。このギャップは、裏を返すとこのギャップを埋めるサービスが世の中にない、と言うことなので解決手段を磨き上げるチャンスです。
現実的に難しいけど、実現できたらユーザーが大きなメリットを得られるサービスを実現してこそ、ユーザーは喜ぶので、新規事業開発の担当者としてはこのギャップを埋めることから逃げてはいけないと思います。
綺麗に抽象化されてない情報だからこそ価値がある
広い範囲の情報源から効率的に新規事業創出のきっかけとなる情報を拾えるのは、特許情報ならではのメリットだと思います。
綺麗に抽象化された情報なら世の中に膨大にあります。でも、その情報の抽象化過程で本当に解決しなければならない現場の課題等の本質的な情報が削ぎ落とされていることがあります。さらに、綺麗に抽象化された情報は広まりやすいので誰もが知っている可能性が高いですし、その分、その情報は活用し尽くされていて、その情報自体ではもはや価値を生まない可能性があると思います。そういった意味で、新規事業の担当者にとっては、綺麗に抽象化されていない情報にこそ価値があると思います。
対して、特許情報には、具体的な課題が解決手段とセットで書かれています。さらに、この具体的な課題が膨大にデータベースに登録されています。このようなカオスな課題データベースって特許情報以外にないんじゃないですかね。
だからこそ、新規事業担当者は、この膨大な具体的な課題が詰まった特許情報データベースを活用した方が良いと考えています。
しかし、新規事業担当者の中で、特許の知見がある方はあまりいらっしゃらないと感じ、もったいないなあ、、と思います。
システム開発と新規事業開発の経験と、知財の専門性が掛け合わさって今がある
新規事業開発の部署に異動したのは6年ぐらい前です。それまではずっと開発担当でした。その時も、新規事業の立ち上げに関わっており、企画部門が新たに考えたサービスをシステムで実現する役目を担っていました。
実は、開発担当にいた頃も、色々なアイデアを考えては企画部門に提案していました。でも、新規事業の立ち上げに必要な予算が本当に少なくて、、、開発費用の増加につながるアイデアは全部拒絶されました。アイデア出しは企画の役目で、予算も、要件のスコープも決まっている枠組みの中でやるのが、とても息苦しくて…。
様々なアイデアを考えても世に出さないと意味がない。このまま消耗するのは勿体無い、と考えて新規事業部門に異動しました。
ちなみに、開発のときも特許情報はずっと見ていました。当時はアイデア創発というより侵害調査の観点でしたが。競合他社は数社程度、とまだまだ未成熟な業界だったこともあり、特許件数も少なかったので、自分で定期的に特許調査をして全件チェックしていました。その時代にすみずみまで特許を読み込んだ知見が今も生きているかもしれませんね。
現在は新規事業部門の所属ではありますが、私が弁理士資格を持っていることを知った他部署の方から特許の相談をされることもあります。さらに、「この技術の活用方法を教えて欲しい」という問い合わせに対して、特許情報を用いて活用方法のアイデアを提示したりもしました。
システム開発と新規事業開発を経験したことで、この二つの担当と知財との接点を経験できたことは自身の強みになっていると感じています。
知財人材がオープンイノベーションのハブになれば、世の中の技術活用が進む
知財人財がオープンイノベーションのハブとなり、知財人財が有する特許情報の検索スキルを利用して、様々な企業の技術情報を調査する等して、新規事業開発の担当者に提案できるようになると、企業に眠っている技術がもっともっと活用されるのでは、と感じています。
例えば、新規事業開発の担当者が、課題解決手段を構成する技術が見つからなくて困っていれば、それに合う手段を検索して提案する、と言う流れがもっと出来れば良いな、と思います。
私は以前、スタートアップとの連携を目的とした、オープンイノベーションを推進する部署にいました。その部署での経験から、今では当たり前のように当社が持っているアセットとスタートアップが持っているアセットを組み合わせて新しい事業を立ち上げる構想を練っています。
その時の経験から言えることはオープンイノベーションの提携先探索に特許情報活用は、ここでもきっかけ作りとして重要だと言うことです。
自分が探している技術を特許情報で検索をしたら、多くの企業が見つかります。その中から、他の情報も見た上で、良さそうな企業にコンタクトすることが出来ます。
オープンイノベーションもきっかけがないと動けないですし、特許情報はそのきっかけになると思います。
このように、新規事業に関する様々な場面で特許情報は活用出来ます。検索はすぐに出来ますし、無料で使える便利な分析ツールもたくさんある。コストパフォーマンスに優れた情報である、とも言えるのではないでしょうか。