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「コンサルテーションで発明者をサポートしたい。それが始まりだった。」RYUKA国際特許事務所 所長弁理士 米国弁護士 龍華明裕氏インタビュー

発明者の頭の中に眠るアイデアをも権利化に導き、ひいては新規事業創出やビジネス活用まで伴走する「特許ビジュアライゼーション」を提供するRYUKA国際特許事務所。

今回は、その所長弁理士/米国弁護士であり、自身の開発者としての経験から生まれた想いのもと、価値の高い権利取得をディスカッションで実現する龍華明裕氏にお話を伺った。

知財との出会い

特許事務所に勤務する前は、大手メーカーにて研究開発に従事していました。

当時としては最先端の他社製品のCPUを組み込んだファクシミリ設計に携わっており、販売目前の段階まで進んでいたのですが、そのCPUが海外企業の特許を侵害していることが明らかになったことで私達が開発したファクシミリもそのままでは販売ができなくなりました。

CPUの販売元企業だけでなく、そのCPUを使用している多くの企業が、特許侵害の警告書を受領しましたので、当時は大きな社会問題にもなったのです。

当時、開発の担当だった私達からすれば、必死で製品販売までこぎつけたところでいきなり中止となり、ソフト開発者やハード開発者も含めて開発担当チーム全員が10か月も販売を延期して設計し直しという事態になりました。

そのときに初めて、特許というものの”強さ”を実感したのです。

知財の専門性から、開発者たちにコンサルテーションを

私が大手メーカーで開発者をしていた頃、(当時は知財の知見はなかったのですが)特許明細書もどきを作成して提出するという形で、発明提案をしていました。作成した書類は多少は修正していただいたものの、開発サイドにフィードバックされることなく、そのまま特許庁に提出されるという一方通行な流れでした。

いったいどの発明を提案すれば特許になるのか、どのような基準で特許が認められるのか、どこをどのようにすれば強い権利になるのか、そういったことがまったくわからず非常に苦労しましたので、そういったコンサルテーションが欲しかったのですね。

当時そのようなフィードバックが得られなかったことが、開発者とのディスカッションを重視する方針の原点となっています。

前述したように、特許というものの強さ、その重要性を感じながら、適切なコンサルテーションができる人がいないということ、そこには大きなニーズと社会的意義があると感じました。

そこで、「弁理士」という仕事をよく調べてみたら、技術専門的な知識や法的思考力、海外対応もする場合は語学力など様々な能力が必要で、「これは面白い仕事だな」と思ったことが、特許事務所で働こうと考えたきっかけです。

知財の世界へ ~特許事務所での実務経験~

大手メーカーにいた頃から、いずれは特許事務所を作ろうと思っていましたので、そこまでのプロセスとして日本特許事務所での経験と米国事務所での経験を積みたかったのですね。

大手メーカーを退職して1991年に日本の事務所に入り、特許実務経験を積みながら弁理士資格を取得し、93年に弁理士会に登録しました。

では次は米国事務所で経験を積みたいと考えつつも、うまく移籍できるかは当時は手探りでしたね。

ちょうどその頃、1995年頃ですが、アメリカで2か月半ほどの大きな知財のセミナーがあり、そこに参加してみました。そのセミナーに参加していた米国事務所のパートナーに気に入ってもらうことができ、働き始めたという経緯です。

何の目途も立っていない状態での渡米は、もちろん不安はありました。

しかし当時は、現在と異なり、メールすらほぼ使用されていない、まだまだ郵便や紙のやり取りで動いていた世界です。

(ちなみにメールするには音響カプラという装置を電話の受話器に装着する必要があり、伝送エラーも多く、あまり一般的ではありませんでした。)

現在は、日本にいながらにして海外のことが良くわかる、どこにいても別の国々のことがよくわかるのが当たり前の世界になっていますが、なにしろ当時は海外のことというのは行ってみないとよくわからない時代だったのですね。日本にいながら海外で働く先を見つけるなどということは非常に難しかったのです。

ですので、まずは現地に行ってみたというわけです。

事務所設立に込めた想い

日本事務所および米国事務所での経験や弁理士資格を得て、1998年に特許事務所を設立しました。設立の理念は、前述の大手メーカー時代の経験と、発明者にきちんとコンサルテーションを提供したい、必要なフィードバックをしたい、という想いです。

そして、発明者と共に、強い知財をつくるということ。

そういう事務所を目指していたのですね。

そのような理念は、後述する「特許ビジュアライゼーション」につながっています。

開発者たちを対話でサポート ~「特許ビジュアライゼーション」の提供へ~

一昔前は特に、特許の中身ではなく出願数だけを重視するような出願方針を採る企業も世の中には多くみられました。そのようにして出願された特許は、中身を読んだ瞬間に「これでは権利を迂回できてしまう」と思うものがたくさんあるのですよ。

例えば請求項に「A」「B」「C」と記載があるときに、「A’(エーダッシュ)」「B’」「C’」といった具合に少し変えることで、その特許を迂回できてしまうわけです。

特許請求の範囲の中身までよくディスカッションした上で出願しないと、出願公開によって世の中に情報公開されてしまい、みすみす自社保有特許を迂回する発明のヒントを与えてしまうだけになってしまうのです。

出願することが、プラスにならないどころか、明確にマイナスなのですね。

このような出願は現在も多く、日本全体の大きな問題だと思います。

出願件数だけに捉われているとこのような問題が生じうるのだということを理解しているのは、ごく一部の方々です。この点をあまりわかっていない方々、基本の製品をカバーする特許を取得すればそれでいいと思っている方々もたくさんいます。

こういったことをお客様たちにお伝えしていくために「特許ビジュアライゼーション」というブランディングを用意し、独自のサービスメニューとしてご提供しています。

きちんとディスカッションして必要なお話をお伝えすると、もちろんこの課題感をご理解いただくことができています。

「特許ビジュアライゼーション」は、弊所の創業(1998年)よりも前から始まっています。

前述したように、自分自身の開発者としての経験や、特許侵害の影響で開発製品が発売できなくなる実例に触れたことから、発明者への説明やコンサルテーションをしていきたいという想いがずっとありましたからね。

福島の日本の特許事務所にいる頃から、発明者へのコンサルテーションを重視しながら、特許出願案件を個人として受注していました。

また米国の事務所に勤務していた時にも、日本特許に関しては、所属事務所から独立して、自分のビジネスとして受注してよいという契約になっていました。

米国事務所での業務と、個人として受注する日本特許の業務、それらは相互に補完し合いますからね。というのは、例えば日本で仕事をした件のクライアントが、将来的に伸びて米国に進出するであるとか、そういったこともあり得るからです。

現在の事務所の創業前、特許出願業務を受注し始めた頃から現在に至るまで、ご依頼は増え続けています。

なぜ増えているのか。そのポイントは、やはりお客様とディスカッションするからだと感じています。

日本の特許事務はハイレベル

特許事務業務を米国の事務の方々に依頼しようとすると、8万ドルくらいは必要になります。また日本の顧客様はリクエストが非常に細かいのですが、そういった部分は米国の事務員の方々ではなかなか対応しづらいということもあります。

日本の緻密な事務作業というのは世界的に見ても非常にハイレベルで、米国よりもはるかに高品質です。これは実は日本の強みでもあり、世界に誇れるものの一つだと感じます。

そういったこともあり弊所では、他の米国法律事務所を介さず、オンラインで米国特許商標庁(USPTO)に直接出願し、高いお客様満足度につながっています。

独自開発の翻訳支援ソフト「RYUKA Translation Assist」

特許翻訳に関しては、独自に開発した翻訳支援ソフトを活用しています。

既存の機械翻訳を使用した場合には、翻訳の一貫性がないという弱点があります。そのことが、このようなソフト開発を行った理由のひとつです。

例えば「table」を最初に「机」と訳したら特許明細書全体を通して「机」と訳さないといけませんし、カタカナで「テーブル」と訳したら同様に明細書全体で一貫して「テーブル」と訳さなければなりません。

それを完璧に見てくれるならば問題はないのですが、それはそんなに簡単なことではないのです。なにしろ特許書類にはその単語が大量に含まれているわけですので、見落としを防ぎきれません。

私たちのアプローチとしては、まずは一貫性を担保し、その上で使える情報だけ使うという形です。

事務所を開設して約7年くらいの頃にはすでに、現在の「RYUKA Translation Assist」ソフトの原型のようなものを開発していました。

翻訳に関して一番最初に開発したそのソフトは、段落ごとに、ある単語が登場する回数を数えるチェックソフトでした。

例えば、ある段落に「table」が2回出てくる文書であれば、その単語を「机」と訳した場合には「机」という単語が2回出てこないとおかしいということになります。

つまり、すべての単語が辞書登録されている対応表に基づいて、原文の単語と、それに対応して日本語訳した単語とが、同じ回数 出てこないとおかしいので、当初はそこをチェックするソフトを作ったというわけです。

これで一貫性が担保されたばかりでなく、抜けを防ぐことができるようになりました。

翻訳で一番多いエラーは、実は「抜け」なのです。

レベルが高くない翻訳者の場合、わからない部分を飛ばして翻訳するケースもあります。

これはマネジメント観点からは100%防ぎきることができません。

こういったチェックソフトからスタートした翻訳ソフト開発は、今に至るまでにかなり進歩を続けており、現在は当時とはかなり異なるものに進化しています。

企業秘密もありますので現在の翻訳ソフトについては詳述はできませんが、翻訳スピードが倍になり、高い翻訳クオリティを保ちながら同時に納期短縮を実現しています。

知財業界での生成AI活用の可能性

生成AIについては、事務所としても活用を考えていかなければならない状況になってきましたね。ChatGPTについて調べたところ、プライベートなデータを使ったスクレイピングができる契約形態があることがわかったので、それを取り入れて活用し始めること自体はそこまでハードルの高いことではなさそうだなというのが第一感です。

しかしそれよりも今求めていることは、「データを用意する」というプロセスをなくしていくことです。

例えば、ツールを使用していくことで自然にデータが共有されていく、そういう仕組みを作っていかないといけない。そこはこれから考えないといけないですね。

例えば、特許事務所の業務のひとつとして、お客様からご質問を受けて回答を出すということがありますが、その業務自体をシステム上でおこなえるようにならないといけないと思うのです。

メールでご質問を受けてメールで回答して、それを後でシステムに流し込むという形式ですと、最も重要な最後の流し込みの部分が行われずに終わってしまう懸念があります。

ですので、例えばメーラーの上で業務を行っていくと、自動で学習されていくようなものが必要ではないかなと思います。

現状では生成AIを十分に活用できているというよりは、将来の活用に向けて、後に取り込めるような形でのデータ蓄積・整理を先行させようとしている状況です。

きっとこれからは、業務フローの変更を伴うような新しいものがどんどん登場してくると思うので、最新の動向を常に追っていきたいですね。

生成AIは、どのように使用するかに注意していかないと危険性もあります。

例えば米国弁護士が訴状の中で、なんと存在しない判例を引用したということがあったのです。生成AIが作り出した虚構の判例だったのですが、非常にそれらしく書いてあるので、おそらく訴状ドラフティングの際にわからなかったのでしょうね。そういったミスが起こりうるので、使い方には非常に注意していく必要があります。

壁打ち相手として使って、発明や新規事業などを考えるツールとする活用の仕方は、非常に可能性があると感じますね。

あるいはアメリカの仮出願の制度を使って、生成AIで作成した出願書類でひとまずすばやく押さえた上で、後から間違いの部分を削除したり修正を行うという戦略は、ありだとは思います(あくまで現状の制度の下ではという話ですので、今後もし仮出願制度に変更があった場合は必ずしもそうだとはいえませんが)。

特許ポートフォリオの構築

ある発明を使用してみると新しい課題が出てきて、新しい課題を解決する技術を使ってみると、また新しい課題が出てきて…という風に、技術というものはスパイラル状にずっと進歩し続けるわけですよね。

現状の課題解決のために新しく技術が生まれた際には、それの使用段階で登場する次の課題というのも、非常に大切なのですよ。基本となった発明が生まれた段階で、そのような先の段階まで見据えてディスカッションをしておかないと、最終的に基本となった発明を現実に実施できないという事態になりかねません。

発明者はたいていの場合、1つの発明について話しているときは、頭の中にはすでにそれ以外の他の発明も考えているのです。

ディスカッションの中でその部分も引き出して、一緒に特許出願をしていく。

そういうことまでできる事務所とそうでない事務所とでは、製品をどれだけ守れるかについて大きな違いが出てきます。そういったことを「発明の展開」と呼んでいます。

さらに発明は展開されるだけではなく新たに生まれ始めるものです。

例えば、もともとはガンのために作られた技術が、コロナ対策にも使えるのではないか?というように。

それは先ほどの、壁の打ち合いに生成AIを活用するという使い方にもつながりますね。

それをやることで初めて未来の製品に対しての特許ポートフォリオづくりができるのです。

目の前の技術の出願に終始してしまう、日本の特許の課題

日本の特許出願の課題のひとつは、目の前の技術が出願されるだけに終始してしまいがちだということです。

例えば今でいうと5Gから6Gにシフトすることはわかっているのでそれに関連する特許出願は増加します。しかし未来に対して、ある種ベンチャー的な、まったく新しい発想で事業をつくっていくアプローチは、出願活動の中でも非常に少ないという点が大きな課題です。

将来のマーケットを押さえることを主眼にする「特許ビジュアライゼーション」

特許訴訟での最重要トピックのひとつが損害額ですが、億単位の多額の賠償額が認定された判決にかかる特許の共通点を調べていくと、なんとそのほとんどが係争時点より約15年ほど前に出願された特許なのです。

言い換えると、時代に先んじて早い段階で出願された特許が高い財産価値に繋がっているということ。

であれば、何を出願するか、もっと戦略的に未来を見据えた特許出願を進めていかないといけないですよね。

翻って日本の従来の出願活動をみると、技術者に対して「発明を提案してください」とお伝えし、そして提案されたものを出願する流れが一般的なのですが、技術者は10年以上先に発売する製品にかかるものではなく、来年に発売する製品に関する技術を提案することがほとんどです。

とすると開発者たちに「さぁ提案してください」という従来の出願活動では不十分です。

なにしろ10年15年後、まだマーケットがない領域に関することですから、まだ開発者が存在していないわけです。

したがって現在は別の分野に携わっている開発者の方々を集めてきて、「将来こういう世界になる可能性になるよね、ではこういうことが実現された前提で次の課題を話し合おう」、というような発明創出活動を行うことが必要ですよね。

そういった意味で、特許ビジュアライゼーションは「将来のマーケットを押さえに行く」ということを主眼にしています。

すなわち、知財の専門性からのサポートや情報提供のもと、今まさに開発した結果ではなく、未来の環境の中で何が必要になるかをディスカッションしていく。こういったことをやらないと10年15年後に大きな財産価値を生ずるような特許を取得することは難しいのです。

最初のステップは、特許ポートフォリオを作るテーマの選定。

いったいどういうテーマで特許出願活動をしましょうかということです。

次のステップがリサーチ。

すなわち、選んだテーマに関連する情報を集める、発明創出前の事前リサーチです。

そしてその次のステップがブレインストーミング。

テーマ選定とリサーチを踏まえて特許ポートフォリオを構築します。

こういったプロセスを経ることによって、従来の出願方法ではともすれば眠ったまま埋もれていってしまったような発明も発掘し、特許性のある方法へ導く。さらには共に価値の高い特許を取得していく。

これが、将来のマーケットを押さえた上でディスカッションを重ねていく、特許ビジュアライゼーションの実現する価値なのです。

RYUKA国際特許事務所:https://www.ryuka.com/jp/