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「創業100年の歴史と最新のサービスを、次の100年へ」みのり特許事務所 所長弁理士 徳岡修二氏インタビュー

現在から遡ること100年。

大正10年特許法(旧特許法)制定の翌年にあたる大正11年に、京都初の特許事務所が開所された。京都で最も古い歴史を持つ「新実特許事務所」は、現在は「みのり特許事務所」と名称を変え、一世紀以上に渡り知財問題を“あんじょう”解決し続けている。

今回は、その4代目の所長として老舗からベンチャー企業まで幅広く知財を守り続けている徳岡修二氏にお話を伺った。

京都で最も古い老舗、みのり特許事務所

「みのり特許事務所」は、創業者が京都の第一号弁理士だったことから始まっており、京都で最も古い特許事務所になります。

創業者の息子にあたる2代目 新実健郎 弁理士が商工会議所で活躍されたことなどで顧客数を増やし、京都の老舗の商標を多数取り扱うこととなったことなどから発展していきました。

長い歴史の中で感じること。

商標に関しては、100年以上前の創業当時からお付き合いのある多くのお客様と、いまだに商標出願や維持などでつながっています。

老舗の多い京都ならではの、極めて長期間に渡って更新され続けている商標管理も、多数 受注し続けています。

特許に関しては、長い歴史を大局的にみると、企業も時代と共に変化していき、また技術も推移していますので、そのときどきのトレンドである技術の業界は、やはり特許出願が盛んになる傾向にあります。

一般的に京都は古い街のようなイメージがあると思うのですが、その一方で最先端のことを行っている有名な企業も意外と多いのです。大学が多いこともあり大学関係のベンチャーも多数あります。

例えばもともとは商標のお客様であっても、長くお付き合いしているとたまに特許のご相談などもいただくことがあります。またそのお客様の知り合いの方がベンチャーを創業したとか、新しいことを始めたとか、そういうことも起こります。

「京都で良い特許事務所を知りませんか?」という話になったときに、弊所をご紹介いただいて、「一度ご相談にいってみられては?」とおすすめいただいていることもあるようです。そのように、長年積み重ねた信頼に基づいて広がっていると思うと嬉しいですよね。

長く継続しているとお客様の数が非常に多いことが一つの強みになっていきます。

小規模の個人事業主様から中規模企業、大企業まで、知財に関する経験値もお客様ごとに千差万別ですので、きめ細かく対応を変えています。

あまり知財に慣れてない方には丁寧にいちからご説明し、納得していただいて進めていく。

中規模くらいで経験豊富、知財のこともよくわかっているお客様には、その求めるところを提供していく。

もちろんどの特許事務所でもなさっていることかと思いますが、弊所の場合は特にお客様の数が多くお付き合いも長いぶん、さらに細やかに個々のお客様ごとの知財の知見やニーズに合わせてサービスを提供し続けており、またそれを長い歴史を通して継続している信頼の積み重ねがあります。そういったものが、当事務所の強みであり、喜ばれる一つの理由かもしれませんね。

普段からトラブル予防を意識した知財管理が大切

「社内で発明発掘を行う際はどのように進めたらいいのか」であるとか、「社内でどのように知財管理をしていけばいいのか」といったことに関するアドバイスも含め、もちろんお客様のお求めがあれば求められるものをご提供していくようにと考えています。

ただ、「どのように知財管理をしていけばよいか?」といったご質問をしてくださるような知財意識が高いお客様もいないことはないのですが、必ずしも多くはありません。

具体的なトラブルも起こっていない段階で、普段から知財管理を意識することはなかなか現実の企業には難しいことなのです。

それよりも「とりあえず今起きてしまっている問題を解決したい」というご相談が寄せられることの方がずっと多いですね。

「警告書が送られてきたがどう対処したらいいか」であるとか、「他社の知財を踏んでしまっており、今後 自社製品を展開していくにはどうしたらいいのか」であるとか、例えばそういったご相談ですね。

今抱えている問題の対処で精一杯、対症療法が必要な状況です。

具体的なトラブルに対応することによってその病気は治るのですけれども、本来は予防という観点が重要です。

しかし、もともとは普段からの知財管理をさほど意識していなかったお客様であっても、何らかのトラブルが生じたときに適切に対応させていただくことを何度か重ねていくと、予防的な知財管理についてご相談していただけるようになることもあります。

普段からの予防的な観点や知財管理の重要性について、意識の変化をお持ちいただけたということ。特許事務所としては、そのサポートを続けていきたいと思っています。

みのり特許事務所の海外対応について

特許など技術系のものは先進国への対応が中心になってきますので、主要五か国への対応がメインになってきます。

一方で商標は、お客様の製品の売り先としては当然さまざまな国々がありえますので、それに伴って、主要五か国に限らず様々な国々、普通に生活する中ではあまり馴染みのないような国々への対応も、必要になってくることがありますね。

商標はもちろん現地の言葉で表記されているものが多いです。例えば中東であるとか東南アジアであるとかは、アルファベットですらない初めて見るような文字で構成されていたりするわけです。日本人としては読むのも難しいですよね(笑)

そういった対応にあたっては、現地の代理人と連携をします。それぞれの国々の代理人とは英語でやりとりしています。

逆に海外の方々にとってみれば、日本語のひらがなやカタカナといった文字は非常に難しいと感じられているでしょうね。そこはお互い様なのです。

先ほどと逆で、海外の出願人が日本において商標出願をするケース(多くは日本語で表記された商標など)では、日本語のわかる我々がコメントをつけて現地の代理人に連絡するわけですが、お互いにその気持ちがわかりあえる部分はあるかもしれませんね(笑)

企業知財部員と特許事務所弁理士の両方を経験

私は現在は特許事務所の所長を務めていますが、かつては大手企業の知財部に在籍しており、そのときは「どのような基準で特許事務所を選ぶか」という視点に立っていました。

現在は逆に特許事務所において企業から依頼される立場におり、両方の立場を経験していることが、事務所の代表を務めるにあたっても非常に役に立っているのではないかと思います。

知財との出会い

大学は法学部に通っており、大学時代から知財のゼミに所属していました。

当時は、現在のような「知的財産権」という言葉ではなく、「工業所有権」という言葉で呼ばれていましたね。

大学卒業後は繊維も手掛ける大手化粧品会社に就職。知財関連の業務を行うという前提で入社しましたので、最初から特許部に配属されました。

その頃は、実は弁理士試験にさほど積極的な方ではなかったのです。

というのは、企業における実務能力と、弁理士資格の有無とは必ずしもリンクするものではないのですね。

各企業ごとに知財部の業務は異なるかと思いますが、例えば明細書を書くことが業務なのであれば明細書を書けることが実務能力ということになるわけです。弁理士試験に通ったからといって、その翌日から明細書を書けるようになれるわけではないですし、弁理士資格がなくてもすばらしい明細書を書く人もたくさん見てきました。

弁理士試験は特許法などの知的財産法を中心に問われる試験であり、その受験勉強をしたからといって、必ずしも直ちに現場の実務ができるようになるとはいえないのです。

特許部で勤務していた当初は、実務能力があることこそが重要だと思っていたので、30歳になる頃までは試験への挑戦にはあまり関心がありませんでした。

弁理士試験を経て

弁理士試験についてはもともとそのように消極的に考えていましたが、一人の同僚の合格が転機となりました。

当時は、弁理士試験というものは、試験勉強以外のことを顧みずなりふりかまわず勉強しないと受からないという印象を持っていましたが、その同僚はきちんと業務を行った上で見事合格。

私をはじめ彼を応援していた当時の同僚たちは、「しっかりと仕事をしながらでも合格できる」ということに気づかされましたし、世間的に見ても仕事や家庭のことなど試験勉強以外のこともきちんとやりながら合格する方々が徐々に増えていっているように見えました。

もちろん、弁理士試験に受かったからといって、企業内で直ちに劇的に待遇が変わるとかそういったことはありません。ただ弁理士試験の対策をすることによって、知財の世界がどれほどの広がりがあるのかを俯瞰して見渡せるようになりますよね。

試験勉強をする前は、自分が業務の中で経験した部分しか詳しくは知らないわけですから、知財の社内相談や質問に応える際にも、「もしかして私の知らない法律の規定があるのではないか?」と、どこか不安も伴っていたわけです。

しかし勉強をすることによって、知財にまつわる法律を全般的に勉強しますから、「この問題を考えるにあたって関係するのは法律のこの部分までで、それ以外のものはない」ということがわかるようになります。「ああ、これ以上の先はない」と把握して自信をもって社内相談にも回答できるようになりました。

また「この部分に法律上の問題の所在がある」ということも指摘できるようになったわけです。

さらに大手化粧品会社にいた頃、私の上司が、弁理士会会費が会社負担になるよう取り計らってくださったりなど、弁理士資格に関する社内待遇の変化もありました。

後述する時代の変化とも重なりますが、企業内においても知財の重要性が上がり、弁理士や知財人材の位置づけが徐々に上がっていく様子をちょうど間近に感じられた世代でもあるかもしれませんね。

世の中で「知財」の注目度が上がっていく。時代の変化とともに。

知財を「工業所有権」と呼んでいたような時代は、特許の話なんて年に一回 聞かれるか否かといったくらいだったのですが、今や「知的財産」という言葉が各種の報道等で毎日のように聞かれるようになりましたし、今年はついに知財ドラマまで放送されましたよね。

私は1980年代の大学時代から知財を学んでおりましたので、実に40年以上、約半世紀弱もの間、知財に関わってきました。ちょうど、世の中で知財というものの位置づけが上がっていく過程を見ながら、共に歩んできたとも言えます。

そういう意味では良い時期に知財に携わることができていたと思いますね。

自動掃天システムによる超新星の発見 ~発明者の立場から~

弁理士の7~8割は理系出身であり、文系出身者は2~3割ほど。世の中的には特許はやはり理系の世界であるといわれています。

私の場合、大学時代は法学部で文系であるのに、なぜ特許を生業に選んだのか。

その問いの原点は、もしかすると「天文学が好き」というところに帰着するのかもしれませんね。

デジタル技術の普及も相まって、アマチュアであっても天体観測からデータ処理までの一連の天文活動を自動で行えるようになり、2021年11月に新しい超新星を発見することができました。

海外のソフトと自作ソフトを組み合わせた超新星の自動掃天システムを自力で開発し、自宅マンションのルーフバルコニーにオーナーの許可を得て望遠鏡や観測小屋などを設置させてもらいました。

もちろん日中に行っている弁理士としての業務が最優先であり、そのために夜間は十分に睡眠をとる必要があります。そのため、夜間 寝ている間に完全自動で可動するシステムを用意したのです。長年、弁理士として発明に関わっている私ですが、趣味の天文学に関しては発明者の立場に立っているといえるかもしれません。

自作の完全自動システムを約3年ほど運用して、夜寝ている間に星の撮影を継続していたところ、あるときたまたま超新星が映っていたことで、弁理士の仕事と両立しながら新発見ができたというわけです。

仕事でうまくいったときももちろん嬉しいですが、これは「責任を果たした」という種類の嬉しさですよね。

好きな天文学で超新星を発見したのは本当に偶然でしたが、それでも非常に嬉しく、仕事での喜びとはまた別種の喜びを味わうことができました。

天文学の趣味は、一見すると知財実務とは関係のないように見えるかもしれません。

しかし、弊所の別の弁理士が「弁理士にとって不要な知識はない」と申していたのですね。

あらゆることに興味や好奇心を持っていることは、弁理士としては必要で有益なことなのだと。

というのは、弁理士はさまざまなジャンルの発明や技術と相対する仕事ですが、お客様に「この人はとても興味を持ってくれているな」と感じさせることができると、発明者の方は非常に話しやすくなり、結果的に良い明細書を書くことにつながるのだと思います。

特許に関わるすべての方々へのメッセージ

特許出願を行うことは、特許権を取得するという目的がもちろん第一ですが、それ以外にもさまざまな効果がみられます。出願を行うことによって自社製品についての理解が深まり、技術知識や製品知識の整理ができます。

その結果、営業活動やマーケティングなど、知財以外の企業活動に関しても良い効果が生じます。

普段から特許を意識することによって、あなたの発明やビジネスはきっともっと発展しますよ、ということをお伝えしていきたいですね。

創業100年の特許事務所から見る、これからの時代の「知財の体力」

京都の最も古い特許事務所として、100年以上に渡って知財を守り続けてきた「みのり特許事務所」。

その所長である私自身も、1980年代の大学時代に知財の勉強を始めてから、約半世紀弱に渡って知財の世界で歩み、その変化を見つめてきました。

2021年のコーポレートガバナンスコード改訂によって知財管理に関する項目が追加されるなど、昨今は企業評価の項目にも知財が挙げられ、その重要性が叫ばれるようになりましたね。それ自体は非常に素晴らしいことであると感じます。

一方で、本当の「知財の体力」ってそれだけではわからない部分が、まだまだあると思うのですね。

というのも各企業の持っている知財部員の能力、ノウハウ、人材の力は、非常に数値化しにくい要素であるといえます。

知財部員のみならず企業全体の知財に対する意識、これが本当の知財の体力です。これをどのように数値化していけばよいのか。

何らかの知財トラブルや問題が起こったときに、適時適切に対応できるのか、自社利益を守れるのかといったことは、各企業の持つ現時点での知財の体力が重要になってきます。

こういった知財体力を高めていくには、非常に地道な努力が必要で、日ごろから知財部に限らず企業全体でなるべく多くの人々が知財に親しんでいる必要があるのではないでしょうか。

では企業全体として知財体力を高めるには、具体的にどうすればよいのか。

知財の基礎的な体力をつけるには、技術分野の特許出願を継続的に見ていくこと。

やはりこれが、知財体力をつけるための一番の運動になると思います。

常に関連する技術や出願状況をウォッチしておくというのは非常に大事なことです。

例えば特許権の場合、「公開特許公報なんて読んだことないです」という技術者ばかりの企業は、知財体力という面ではやや心もとないかもしれません。

一方、自分の携わっている専門分野だけでもよいので、常に競合他社がどのような特許出願をしているのか把握しているであるとか、公開特許公報も良く見ていますという企業は、いざというときに知財体力を発揮できる可能性が高いです。

コーポレートガバナンスコードなどのトピックワードが独り歩きしている部分もあるように思われますが、そういった地に足の着いた、日々の地道な積み重ねこそが問われるのだと感じます。

私たち特許事務所は、普段からの知財管理やトラブル予防の継続の重要性をお伝えしていくことも含めて、まだまだ数値化が難しい本質的な企業体力を各企業様に発揮していただけるようなサポートを継続していけたらいいですよね。

多様なお客様それぞれの知財問題を、きめ細やかに“あんじょう”解決していく。

弊所の100年続いた営みを、古き老舗と最先端の挑戦が共存する京都で、これからも続けていきたいと思っています。

弁理士法人みのり特許事務所:https://www.minori-pat.com/