株式会社カプコン 奥山幹樹氏【知的財産部インタビュー 】

企業で自社技術の権利化・知財活用に取り組む知的財産部の方々へ、普段の業務や企業全体の知財戦略についてお話を伺う「知的財産部インタビュー」の企画。

今回は、大手ゲームメーカーの株式会社カプコン知的財産部副部長 奥山幹樹氏にお話を伺いました。

知的財産との出会い

大学でロボット工学を専攻しており、エンターテインメント要素が入った福祉機器の研究をしていました。大学卒業後は、医療機器メーカーの開発部に就職しました。

そこで開発部内の法務特許課の配属になったのが特許との出会いです。入社当時は製品開発を行うものだとばかり思っていたので、「特許担当」と言われて「あれ?」となったのを覚えています。

部署の業務は電気安全法などの適合検査業務や特許出願業務等でした。入社当時は特許が何かも知らなかったので一から勉強したのですが、当時業界内で特許紛争などがあったこともあり特許の業務に面白さを感じました。採用担当の方が私の適正を見抜いてくださっていたのではないかと思って感謝しています。

その後、ゲームが好きだったこともあり特許担当としてカプコンに入社して現在に至ります。

現在の業務内容―特許実務・マネジメント・妄想!?

私の現在の業務は、大きく3つに分けられます。

一つ目は、プレイヤーとしての特許実務になります。

特許実務は、発明発掘、調査、出願、拒絶理由通知に対する中間対応などです。

開発から共有される企画書・仕様書のうち、出願やクリアランスが必要なものをリストアップして調査を社内で行います。出願が可能な発明については、特許事務所に出願を依頼するための資料をつくります。開発担当者(クリエイター)の負担を減らすため、出願のミーティングに開発担当者は出席せずに、特許担当者だけで対応することが多いです。

また、他社特許の最新の公報やゲームをチェックする業務も特許実務の一つです。

二つ目は、マネジメント業務です。

知的財産部副部長と特許チーム長を兼務していますので、中長期の戦略を立てたり、ミッション管理、予算管理、進捗管理、業務アサインなどを行っています。また、バックオフィス業務、業務効率化などもやるようにしています。部員は特許実務のプロプレイヤーなので、部員が特許業務において100%の力が出せるようにマネジメントしています。

三つ目は、発明創出です。

発明創出を開発部門だけに頼らず、知的財産部もカプコンの一社員として会社の無形資産の構築にかかわれるように、知的財産部員自身が発明し、特許を取得するという施策を行っています。知財担当者が発明している企業を参考にして、戦略的にカプコンでもこの施策を取り入れました。

その結果、昨今は開発部よりも知的財産部の発明の方が多くなるような状況になっています。KPIにも知的財産部の発明の創出に関する項目を掲げています。

私自身も発明のために日々「妄想」をしています。「どのような機能をゲームに実装すればユーザはもっとゲームを楽しむことができるか」「人々の生活は今後どう変わり、どのようにゲームをプレイするのか」などを考えています。自分が気になっている会社、好きな会社とカプコンがコラボしたらどんな発明が生まれるなども妄想して発明することもあります。

例えば、「リーガルテック社とカプコンがコラボしたら」といった感じです。「〇〇がゲームを出したよ。さてどんなゲーム?」というお題に対してひねりを効かせた”とんち”が発明につながることもあります。この”とんち”は十人十色なので、十人に聞くと十個発明が産まれる可能性があります。

ゲームクリエイターは目の前の製品開発に集中しているので、その担当業務の部分にのみ着目することが多いです。また、研究開発というよりは著作物であるビデオゲームを制作している、という意識が強いです。知的財産部員は、「ユーザ目線でこういうのがあったらいいよね」という非開発部門であることを活かした視点や競合他社の動向を踏まえた視点で発明し、特許出願するようにしています。

いつか、妄想に留まらず、この記事を見ている異業種の人と実際にディスカッションして発明(製品化)をしてみたいですね。

「趣味」から生まれるアイディア

他の業界に詳しいわけではないですが、モノを作らずアイディアを出せるというのはゲーム業界特有なのかもしれません。

妄想は開発費がかかりません。それにもかかわらず、その妄想を特許出願し設定登録されると、会社の無形資産となります。発明や創作活動をする社員はまさに人財です。私たちは、よいアイディアを生み出すために仕事としてYouTubeをみたり、ゲームをしたりしています。また、アニメやゲームなどのコンテンツを多く知っている方が開発者とも話がはずみますし、信頼を得られます。

当社の社員はアニメやゲームが好きなメンバーが多いので、プライベートでも色々とチェックしています。個人的に興味があるゲームはプライベートでして、それ以外のゲームは仕事としてするという切り分けかもしれません。

ゲームも楽しいですが、そもそも特許業務が楽しいです。特許業務は特許法というルールのなかで戦略を考えて行動する必要があるので、ゲームやスポーツに似ています。そのため、私自身仕事を非常に楽しくやっていますし、部員が楽しく仕事をしているかどうかも気にしています。時々部員に「その仕事面白い?」と聞くこともあります。「仕事が面白くない」のであれば、なぜ面白くないのかを考え業務フローなどを改善するようにしています。

遅れを取り戻すための「活きた」知財活用

カプコンはゲーム業界の中で老舗メーカーに属します。ですが、ゲーム業界の特許件数を調べてもらえれば分かるように、カプコンは他社に比べ出遅れてしまった状態になっています。

同じ時期に創業したゲームメーカーは相当数の特許を出願していますが、カプコンは数が多いわけでもなく、広く他社で実施されうる特許も少ない。「カプコンこだわり仕様」の特許が多いんです。これは、カプコンがゲームの質を高めるために細部まで拘ってゲーム制作していることの裏返しになりますが、ゲームの黎明期から知財戦略では出遅れてしまった形になっています。

そうしているうちにインターネットが普及してスマホゲームが登場し、新たな企業も業界に参入してきました。新参入のメーカーも特許出願に力を入れており、この時期に他の老舗メーカーもスマホゲームに関する特許を取得し始めました。ゲーム業界特許の勢力図が大きく動いたんです。

ですがその段階でもカプコンは出遅れました。いまはこれを打開するために、「活きた」特許を他社レベルまで増やす努力をしています。そして、他社と特許クロスライセンスをして、ユーザの満足度を上げること、開発の自由度を高めることを進めています。

このように「活きた」特許である会社の無形資産を増やすべく、開発だけに頼らず、同じカプコン社員である知的財産部員自らが発明をするということにつながっています。今後は、非開発である知的財産部員の奮起をきっかけに全社員でカプコンの無形資産を増やすという意識が高まり、発明がたくさん創出されることを期待しています。また、社員の知財意識を高めるのも知的財産部の役割だと思っています。そのため、当社のキャラクターを活用し、特許業務をする猫のオリジナルイラストを作って社内啓発活動も進めています。

たとえば、電化製品などと異なり、ゲームに関しては「この特許技術が入っているから」という理由で差別化できるものではないと思っています。ユーザは、特許技術の有無よりも著作物であるキャラクターが好き、バイオハザード、モンスターハンター、ストリートファイターのようなブランド(商標)が好きというユーザが商品を買って楽しんでくれる。

カプコンでは、ワンコンテンツ・マルチユース戦略を掲げ、カプコンのゲーム・キャラクターを幅広く愛してもらうような戦略をとっています。

特許については、自社の利益を守るために譲れないものもあり、オープンクローズ戦略をとることにはなりますが、ユーザの利便性を高める機能などの特許発明は自社のみならず他社にも幅広く実施してもらった方がユーザのためにもなると思っています。他社の特許を回避するにしても、開発も知財担当者も相当な労力がかかりますからね。

「ニューノーマル時代」に備えて

新型コロナウイルスの蔓延で人々の生活が激変し、デジタル化が一気に進みました。デジタル化のサービスとしては既に市場にありましたが、人々がそれを受け入れることで一気に加速しました。

このようなニューノーマルな生活やサービスの利用者が増えることによって新たな課題が出てくると思っています。その解決策として、異業種の技術とゲーム技術を掛け合わせて何かイノベーションが起きないかと知的財産部で研究しているところです。

たとえば、ゲーム技術を一つ一つ分解し、そこに新しい異業種のエッセンスを取り入れて再構築することで何か新しいものが産まれないかと考えています。新型コロナウイルスの蔓延で経験したように、ある日突然今まで当たり前にやっていたことが当たり前でなくなる時代が来ます。

この先、「人々がゲームを全くやらなくなる日」が来るかもしれないというぐらいの危機感をもって、視野を広くして「妄想」をしています。新規事業の立ち上げには莫大なお金がかかりますが、「妄想」して特許を出願する分にはそこまでお金がかかりません。

「ゲーム」というくくりはどんどんなくなっていく

最近は、デジタル化によりゲームをプレイするユーザが全世界に広がり、ゲームは一般的なものになりました。

歩くことがゲームになったり、睡眠がゲームになったりと、どんどん「ゲーム」と「生活」の垣根がなくなり、将来的には人々の生活・行動そのものがゲームになっていくのではないでしょうか。生きること・人生そのものがビデオゲームとして表現されるかもしれません。

また、これからはAIやブロックチェーンを利用したゲームなども活発になっていくと思います。

今後は、異業種からゲーム業界に参入してくる企業もあるかもしれませんし、その逆もあるかもしれません。

また、それに伴いM&Aも進むかもしれません。ゲーム技術と親和性が高い技術や企業を見つけるためにもIPランドスケープなどが必要になる場面が増えていくでしょう。

このようなことも想定して、いま当社では「妄想」で無形資産を増やすとともに、IPランドスケープも進めようとしています。ただ、特許解析も知財担当者の自己満足にならないように、解析結果を誰が何に使うのかを意識して慎重に検討・準備をすすめています。

知財分野を志す人に

これからの時代は、単に特許実務を遂行するだけでなく、自ら会社の無形資産を生み出せる知財担当者が必要になってくると思います。

現在開発職についている方とか、理系大学の学生は、知的財産部で活躍できる場面が多くなると思います。とくにゲームやスポーツが好きな人は特許業務に向いていると思います。

特許実務は特許法のルールのなかで競争して勝利を目指す仕事です。またそこから一歩踏み込んで、他社と交渉等を行い両者勝ちとなる着地点を探ることもできるやりがいのある仕事です。

そのため、勝つこと・負かすことだけでなく、どのように特許を活用すれば利益を出せるかなど、広い視野で柔軟に考えられる人材も必要になってくると思います。

仕事柄、論理的思考ができないと苦労するかもしれませんが、特許は楽しい仕事だと思いますので、知財業務に携わりたいという人がもっと増えてほしいですね。