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そっくりな金魚電話BOX 著作権侵害が確定

「金魚のまち」として知られる奈良県大和郡山市の商店街で展示されていた「金魚電話ボックス」をめぐり福島県の現代美術作家・山本伸樹氏が「自らの著作権を侵害している」と訴えていた裁判で、最高裁が商店街側の上告を退ける決定をして、著作権侵害を認めた2審判決が確定し、著作権侵害があったことが認められました。

これらの事件、1審と2審で大幅に異なった判断がされています。どのような判断がされ、その原因となったのはどのようなポイントだったのでしょうか。見ていきたいと思います。

[前提として著作物性の有無]

ⅰ思想又は感情

ⅱ創作性(著作物の外部的表現形式に著作者の何らかの個性が現れていればよい)

ⅲ表現したもの (単なる「アイディア」は表現ではないので保護対象外)

ⅳ文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること

[複製権(著作権の一種)侵害になる要件]

複製=印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること

要件
  1. 既存の著作物に依拠して創作したこと(依拠性)
  2. 表現形式上同一性・共通性を有するもの(同一性・共通性)

[翻案権(著作権の一種)侵害になる要件]

翻案=既存の著作物の本質的な特徴の同一性を維持しつつ修正、増減、変更等を加えて新たな著作物を作ること

要件

著作権者に無断で著作物を翻案したこと

[1審 奈良地裁平成30年(ワ)第466号]

判決の要点

〈1〉山本氏の作品の著作物性はある(以下その特徴)。

❶公衆電話ボックス様の造形物を水槽に仕立て、その内部に公衆電話機を設置した状態で金魚を泳がせていること

➋金魚の生育環境を維持するために、公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること

〈2〉原告が同一性を主張する点については著作権法上の保護の及ばないアイディアである

❶の著作物の評価

アイディアではあるが「表現それ自体」ではないから著作権法保護対象外(ⅲ不充足)

➋の著作物の評価

公衆電話ボックス内に金魚を泳がせるというアイディアが決まれば自ずと泡を出すのは穴の空いている受話器から出す構成にする、と選択肢が限られるので、創作性は否定(ⅱ不充足)

〈3〉山本氏の作品の色・形状等の具体的な表現については創作性を認め(ⅱ充足)、著作物に当たる(著作権性認定)

しかしアイディアに対して必然的に生じる表現であること、商店街の作品から山本氏の作品を直接感得することはできないことを理由として、両者の作品の同一性[複製権]②を否定

→結論

原告の請求は棄却(商店街は著作権侵害をしていないと認定

[2審 大阪高裁令和元年(ネ)第1735号]

→結論

創作性のある部分は共通していることから、商店街の作品は、山本氏の作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製していると判断し、複製権侵害と認定しました。仮に別の著作物ということができるとしても、山本氏の作品の翻案権侵害が認定できる、としています。

判決の要点

(1)複数の創作性を検討したうえで、これらを組み合わせた作品全体についての創作性を判断しています。

以下(あ)~(う)の創作性は否定、1審〈2〉➋の創作性は肯定しました。
(あ)電話ボックスの多くの部分に水が満たされている

(い)電話ボックスの側面の4面とも、全面がアクリルガラスである

(う)その水中には赤色の金魚が泳いでおり、その数は、展示をするごとに変動するが、50匹~150匹程度である

1審で「アイディア」と判断された〈2〉➋について、「水槽に空気を注入する方法としてよく用いられるのは、水槽内にエアストーン(気泡発生装置)を設置すること」で、受話器から気泡を出すことは“ありふれた表現ではなく”創作性ある表現(著作物性ⅰ充足)であると認めました。

そしてこの表現については、山本氏の作品は商店街の作品と共通[複製権]②しており、

商店街の作品制作者・制作時期、作品の存在・内容を認識しながら制作した事情から山本氏の作品に依拠[複製権]①しているとして、複製権侵害を認定しました。

(2)翻案権侵害については、商店街側が山本氏の許可を得ずに、前述より、「著作物」である山本氏の作品を「改変して、新たな著作物を創作」したといえるので、本権利侵害を認定できます。

[最高裁]

上告不受理

=高裁判決で確定(商店街による山本氏の著作権侵害を認定)

1審と2審で判断が割れ、最高裁は2審を支持するという形で決着を見せた本件。この判決がどの程度汎用的に適用できるものなのか、今後著作物同士が類似していることをどのように判断するかは事案の蓄積が待たれますが、それらの先駆けとして本判決は一定の意味を持つことになるでしょう。